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5-5.脂質について知っておこうにおいて、脂質の種類やその働きについて説明した。ここでは、食品に最も多く含まれている脂質、中性脂肪の主要な構成成分である脂肪酸について解説する。飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸の違い、トランス脂肪酸、そして最近注目のMCT(中鎖脂肪酸)についても紹介したい。
脂肪酸とは?
脂肪酸の種類について考える前に、今一度脂肪酸についておさらいしようと思う。脂肪酸とは、脂質の構成成分で、炭素数の違いから短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3つに分類される有機酸である。
我々が摂取している食事に含まれる脂質の大部分は中性脂肪で、中性脂肪はグリセロールに3つの脂肪酸が結合した形をしている。中性脂肪では体内ではリパーゼと呼ばれる酵素によって分解され、グリセロールと脂肪酸に分解される。
脂肪酸は骨格筋をはじめとする細胞のエネルギー源として利用される。血中に存在する遊離脂肪酸は、ウォーキングなどの軽い運動ではエネルギー源としての貢献度が高いことが知られている1。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違い
脂肪酸は、炭素同士が二重結合せず水素と結合している(飽和している)飽和脂肪酸と、炭素同士が二重結合している不飽和脂肪酸に分類される(図1)。また、この不飽和脂肪酸は、二重結合が1つのものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上のものを多価不飽和脂肪酸として分類する。
飽和脂肪酸
乳製品、肉類などの動物性脂質、ココナッツオイル、あるいはパーム油などに多く含まれている。常温で固体のものが多いことも特徴である。
生体にとっての重要なエネルギー源であるが、世間的に飽和脂肪酸は健康に悪い影響を与える油として認識されている。飽和脂肪酸を摂取すると、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の血中濃度が増加し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低下すると言われている。
飽和脂肪酸の過剰摂取は生活習慣病の発症リスクを増加させるとして、わが国では飽和脂肪酸の目標量を、エネルギー摂取量の7%以下に設定している2。
不飽和脂肪酸
魚油、えごま油、コーン油、あるいはオリーブオイルなどに多く含まれる脂肪酸である。常温で液体のものが多いことが特徴である。不飽和脂肪酸の効果は、一価と多価で少し異なるが、いずれにせよ健康に良い影響を与える油として知られている。
一価不飽和脂肪酸には、よく知られているものとしてオリーブオイルの主成分であるオレイン酸がある。オレイン酸はLDLコレステロールを低下させる作用を持つとされ、健康的な油として認識されている。また、酸化に強いことも特徴である。
多価不飽和脂肪酸の例としては、オメガ6系やオメガ3系の脂肪酸が挙げられる。特に、オメガ3系のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などは、世間的にもよく知られている。この2つの脂肪酸は魚に多く含まれているが、サプリメントとしても数多く市場に流通している。オメガ6系やオメガ3系の脂肪酸の脂肪酸は体内で合成することが出来ない為、必須脂肪酸とも呼ばれている。
健康に悪影響? トランス脂肪酸とは?
日本ではあまり取り上げられないが、世界的には健康に悪影響を与える可能性の高い脂質としてトランス脂肪酸が注目されている。トランス脂肪酸は、植物油などからマーガリンやショートニングなどを製造する際や植物油を高温にして脱臭する工程で生じる脂肪酸である。天然でも、牛などの反芻(はんすう)動物に由来する乳製品や肉に含まれている。このトランス脂肪酸は、HDLコレステロールの低下とLDLコレステロールの上昇を引き起こすと報告されている3。このためWHO(世界保健機関)では、健康増進の為の目標量としてトランス脂肪酸の摂取量を全エネルギーの摂取量の1%未満に抑えるように推奨している4。
諸外国ではトランス脂肪酸の使用禁止や含有量の表示が義務付けられているなど非常に厳しく管理や制限がされている一方、日本人は欧米人と比較してトランス脂肪酸に対して危機感を持っている人が少ない。欧米と比較すればトランス脂肪酸の摂取量は少ないものの、健康の為もう少し関心を持っても良いのではないだろうか。
今注目のMCT(中鎖脂肪酸)とは?
近年、スポーツ界ではMCTと呼ばれる脂肪酸が注目されている。このMCTとは一体何だろうか?
MCTとは、Medium-Chain Triglyceridesの略で、日本語では中鎖脂肪酸という。炭素数が8-10程度の脂肪酸をMCTと呼び、体脂肪がつきにくい油などと言われている。
長鎖脂肪酸との大きな違いは、MCTの吸収経路にある。長鎖脂肪酸で構成されている油脂(長鎖脂肪酸油)は小腸でリパーゼの作用を受けて分解されると、長鎖脂肪酸はリンパ管に入り静脈を経由して肝臓へたどり着く。一方、MCTで構成されている油脂(MCT油)は、リパーゼの作用で分解されると、門脈を通り直接肝臓に取り込まれる(図2)。このように、MCTは吸収速度が速く、エネルギーとして速やかに代謝されるため脂肪がつきにくいと言われている。
アスリートにとってMCTはどんなメリットをもたらしてくれるのだろうか?先に挙げたように、MCTは素早く肝臓に取り込まれるため、通常の脂質と比較して素早くエネルギーを供給できる。また、MCTはミトコンドリアで代謝(β酸化)される際、長鎖脂肪酸とは異なり容易にミトコンドリア内に流入することが出来る。すなわち、MCTは素早く吸収され、さらに素早くエネルギー源として代謝されるのである。
さらにMCT摂取には、運動中エネルギー源としての糖質利用を抑え、脂質を優先的に利用する効果があることも報告されている5。
5-1.糖質について知っておこうでも述べたように、生体内に貯蔵されている糖質(グリコーゲン)の量には限りがある為、グリコーゲン利用を節約できることは、アスリートにとって大きなメリットとなるだろう。研究的には、1日当たり6gのMCTを2週間摂取することで、運動中の有意な脂質利用向上と持久力向上がもたらされるとの報告がある6。
しかしながら、MCTのパフォーマンス向上効果については未だエビデンスが不十分である。その為、国際スポーツ栄養学会のレビューにおいては、MCTの有効性をサポートするには根拠が不十分であるとされている7。
5-5.脂質について知っておこうにおいて、脂質の種類やその働きについて説明した。ここでは、食品に最も多く含まれている脂質、中性脂肪の主要な構成成分である脂肪酸について解説する。飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸の違い、トランス脂肪酸、そして最近注目のMCT(中鎖脂肪酸)についても紹介したい。
脂肪酸とは?
脂肪酸の種類について考える前に、今一度脂肪酸についておさらいしようと思う。脂肪酸とは、脂質の構成成分で、炭素数の違いから短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3つに分類される有機酸である。
我々が摂取している食事に含まれる脂質の大部分は中性脂肪で、中性脂肪はグリセロールに3つの脂肪酸が結合した形をしている。中性脂肪では体内ではリパーゼと呼ばれる酵素によって分解され、グリセロールと脂肪酸に分解される。
脂肪酸は骨格筋をはじめとする細胞のエネルギー源として利用される。血中に存在する遊離脂肪酸は、ウォーキングなどの軽い運動ではエネルギー源としての貢献度が高いことが知られている1。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違い
脂肪酸は、炭素同士が二重結合せず水素と結合している(飽和している)飽和脂肪酸と、炭素同士が二重結合している不飽和脂肪酸に分類される(図1)。また、この不飽和脂肪酸は、二重結合が1つのものを一価不飽和脂肪酸、2つ以上のものを多価不飽和脂肪酸として分類する。
飽和脂肪酸
乳製品、肉類などの動物性脂質、ココナッツオイル、あるいはパーム油などに多く含まれている。常温で固体のものが多いことも特徴である。
生体にとっての重要なエネルギー源であるが、世間的に飽和脂肪酸は健康に悪い影響を与える油として認識されている。飽和脂肪酸を摂取すると、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の血中濃度が増加し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低下すると言われている。
飽和脂肪酸の過剰摂取は生活習慣病の発症リスクを増加させるとして、わが国では飽和脂肪酸の目標量を、エネルギー摂取量の7%以下に設定している2。
不飽和脂肪酸
魚油、えごま油、コーン油、あるいはオリーブオイルなどに多く含まれる脂肪酸である。常温で液体のものが多いことが特徴である。不飽和脂肪酸の効果は、一価と多価で少し異なるが、いずれにせよ健康に良い影響を与える油として知られている。
一価不飽和脂肪酸には、よく知られているものとしてオリーブオイルの主成分であるオレイン酸がある。オレイン酸はLDLコレステロールを低下させる作用を持つとされ、健康的な油として認識されている。また、酸化に強いことも特徴である。
多価不飽和脂肪酸の例としては、オメガ6系やオメガ3系の脂肪酸が挙げられる。特に、オメガ3系のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などは、世間的にもよく知られている。この2つの脂肪酸は魚に多く含まれているが、サプリメントとしても数多く市場に流通している。オメガ6系やオメガ3系の脂肪酸の脂肪酸は体内で合成することが出来ない為、必須脂肪酸とも呼ばれている。
健康に悪影響? トランス脂肪酸とは?
日本ではあまり取り上げられないが、世界的には健康に悪影響を与える可能性の高い脂質としてトランス脂肪酸が注目されている。トランス脂肪酸は、植物油などからマーガリンやショートニングなどを製造する際や植物油を高温にして脱臭する工程で生じる脂肪酸である。天然でも、牛などの反芻(はんすう)動物に由来する乳製品や肉に含まれている。このトランス脂肪酸は、HDLコレステロールの低下とLDLコレステロールの上昇を引き起こすと報告されている3。このためWHO(世界保健機関)では、健康増進の為の目標量としてトランス脂肪酸の摂取量を全エネルギーの摂取量の1%未満に抑えるように推奨している4。
諸外国ではトランス脂肪酸の使用禁止や含有量の表示が義務付けられているなど非常に厳しく管理や制限がされている一方、日本人は欧米人と比較してトランス脂肪酸に対して危機感を持っている人が少ない。欧米と比較すればトランス脂肪酸の摂取量は少ないものの、健康の為もう少し関心を持っても良いのではないだろうか。
今注目のMCT(中鎖脂肪酸)とは?
近年、スポーツ界ではMCTと呼ばれる脂肪酸が注目されている。このMCTとは一体何だろうか?
MCTとは、Medium-Chain Triglyceridesの略で、日本語では中鎖脂肪酸という。炭素数が8-10程度の脂肪酸をMCTと呼び、体脂肪がつきにくい油などと言われている。
長鎖脂肪酸との大きな違いは、MCTの吸収経路にある。長鎖脂肪酸で構成されている油脂(長鎖脂肪酸油)は小腸でリパーゼの作用を受けて分解されると、長鎖脂肪酸はリンパ管に入り静脈を経由して肝臓へたどり着く。一方、MCTで構成されている油脂(MCT油)は、リパーゼの作用で分解されると、門脈を通り直接肝臓に取り込まれる(図2)。このように、MCTは吸収速度が速く、エネルギーとして速やかに代謝されるため脂肪がつきにくいと言われている。
アスリートにとってMCTはどんなメリットをもたらしてくれるのだろうか?先に挙げたように、MCTは素早く肝臓に取り込まれるため、通常の脂質と比較して素早くエネルギーを供給できる。また、MCTはミトコンドリアで代謝(β酸化)される際、長鎖脂肪酸とは異なり容易にミトコンドリア内に流入することが出来る。すなわち、MCTは素早く吸収され、さらに素早くエネルギー源として代謝されるのである。
さらにMCT摂取には、運動中エネルギー源としての糖質利用を抑え、脂質を優先的に利用する効果があることも報告されている5。
5-1.糖質について知っておこうでも述べたように、生体内に貯蔵されている糖質(グリコーゲン)の量には限りがある為、グリコーゲン利用を節約できることは、アスリートにとって大きなメリットとなるだろう。研究的には、1日当たり6gのMCTを2週間摂取することで、運動中の有意な脂質利用向上と持久力向上がもたらされるとの報告がある6。
しかしながら、MCTのパフォーマンス向上効果については未だエビデンスが不十分である。その為、国際スポーツ栄養学会のレビューにおいては、MCTの有効性をサポートするには根拠が不十分であるとされている7。