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近年、アスリートやスポーツ愛好家の中で流行している食事法の1つにケトジェニックダイエットがある。ケトン食、ケトンダイエットなどとも言われるこの食事法は一体どんなものなのだろうか? ここでは、ケトジェニックダイエットがアスリートにとって効果的な食事法となりえるのか、最新の研究をもとに解説する。
ケトジェニックダイエットとは一体何か?
ケトジェニックダイエットとは、いわゆる脂質たっぷりの高脂肪食とは少し異なる。一般に高脂肪食といえば、脂っこい揚げ物やピザ、ハンバーガー等のファストフードなど、糖質と脂質でエネルギー源の殆どを補給する食事の事をイメージするだろう。一方、ケトジェニックダイエットは、糖質の摂取量を~50gあるいはエネルギー摂取量の10%以下に抑え、たんぱく質摂取量を確保(1.2~1.5g/kg 体重/日)した状態で、残りのエネルギーを脂質から摂取する食事法のことをいう1(脂質エネルギー比率は60~80%以上になる)。
ケトジェニックダイエットでは糖質の摂取量が非常に低いため、生体内ではケトン体の産生と、脂質をエネルギー源として利用する能力が著しく増加すると言われている。これは一般的な高脂肪食では起こらない適応であり、栄養学の世界では高脂肪食とケトジェニックダイエットは区別されている。
糖質に代わるエネルギー源、ケトン体
前述の様に、ケトジェニックダイエットは生体内での糖質利用を節約し、脂質を利用する能力が高まる食事法である。この時、特にケトン体と呼ばれる物質の代謝がカギとなっている。ケトン体とは、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称で、これらはいずれも脂肪酸やアミノ酸の代謝物であり、肝臓で産生される。ケトン体は骨格筋や心筋などの組織に取り込まれエネルギー源として利用される。余談だが、実は脳でもケトン体がエネルギー源として使われている。
通常脂質をエネルギー源として利用する時、脂肪酸はβ酸化と呼ばれる過程を経てアセチルCoAになり、ミトコンドリアでATPが再合成される。実はこのβ酸化という過程は様々な酵素が関わる為、ATP再合成までに時間がかかる。一方、ケトン体は細胞内に取り込まれたのち素早くアセチルCoAに変換される性質を持っている(図1)。すなわち、ケトン体は脂質としては非常に効率の良いエネルギー源なのである。ケトジェニックダイエットは、糖質を殆ど補給しない為、肝臓でこのケトン体の産生が高まる。脂質を有効利用できる身体を獲得できることが、ケトジェニックダイエットの特徴である。
ケトジェニックダイエットはアスリートのパフォーマンスを向上させるのか?
さて、脂質を効率よく利用できるという事はパフォーマンス向上に繋がるのだろうか?様々な研究の結果をまとめると、ケトジェニックダイエットがアスリートのパフォーマンス向上に有効な栄養戦略であるかどうか、まだ議論の余地があるようだ。先にも述べたように、ケトジェニックダイエットは生体内での脂質利用能力を向上させる。限られたエネルギー源である糖質を節約し、脂質を有効利用できることは、持久性アスリートにとってはポジティブな効果といえるだろう。しかし、ケトジェニックダイエットにはいくつかのデメリットもあるようで、脂質の利用能力が向上する代わりに、グリコーゲンを分解する能力が低下する可能性があると報告されている1。
実際に、エリート競歩選手にトレーニングと併せてケトジェニックダイエットを実施した研究がある。その結果、ケトジェニックダイエットを実施していない選手は10kmのレース成績が向上したのに対して、ケトジェニックダイエットを実施した選手はレース成績の向上が認められなかったことが報告されている2(図2)。この実験では、3週間ケトジェニックダイエットを摂取した群で運動時の酸素摂取量が増加していたことも報告しており、運動時のエネルギー効率が低下していた可能性が考えられる2。このほかにも、ケトジェニックダイエットを実施することにより、便秘、痙攣、イライラなどの症状が引き起こされる可能性があるとも報告されている3。
図2. エリート競歩選手における3週間のケトジェニックダイエットが10km競歩のレースパフォーマンスに与える影響 (*文献2より作成)
これらの報告を含め、現状までにケトジェニックダイエットがアスリートの運動パフォーマンスを向上させる栄養戦略になるとは言い難い。しかしながら、中にはこの食事法で結果を出しているアスリートもおり、一概に結論付けられない状況でもある。重要なことは、どのような食事法においてもまず自分に合うかどうか試してみることである。
5-5.脂質について知っておこう
5-6.脂肪酸の種類~必須脂肪酸・MCTとは
近年、アスリートやスポーツ愛好家の中で流行している食事法の1つにケトジェニックダイエットがある。ケトン食、ケトンダイエットなどとも言われるこの食事法は一体どんなものなのだろうか? ここでは、ケトジェニックダイエットがアスリートにとって効果的な食事法となりえるのか、最新の研究をもとに解説する。
ケトジェニックダイエットとは一体何か?
ケトジェニックダイエットとは、いわゆる脂質たっぷりの高脂肪食とは少し異なる。一般に高脂肪食といえば、脂っこい揚げ物やピザ、ハンバーガー等のファストフードなど、糖質と脂質でエネルギー源の殆どを補給する食事の事をイメージするだろう。一方、ケトジェニックダイエットは、糖質の摂取量を~50gあるいはエネルギー摂取量の10%以下に抑え、たんぱく質摂取量を確保(1.2~1.5g/kg 体重/日)した状態で、残りのエネルギーを脂質から摂取する食事法のことをいう1(脂質エネルギー比率は60~80%以上になる)。
ケトジェニックダイエットでは糖質の摂取量が非常に低いため、生体内ではケトン体の産生と、脂質をエネルギー源として利用する能力が著しく増加すると言われている。これは一般的な高脂肪食では起こらない適応であり、栄養学の世界では高脂肪食とケトジェニックダイエットは区別されている。
糖質に代わるエネルギー源、ケトン体
前述の様に、ケトジェニックダイエットは生体内での糖質利用を節約し、脂質を利用する能力が高まる食事法である。この時、特にケトン体と呼ばれる物質の代謝がカギとなっている。ケトン体とは、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称で、これらはいずれも脂肪酸やアミノ酸の代謝物であり、肝臓で産生される。ケトン体は骨格筋や心筋などの組織に取り込まれエネルギー源として利用される。余談だが、実は脳でもケトン体がエネルギー源として使われている。
通常脂質をエネルギー源として利用する時、脂肪酸はβ酸化と呼ばれる過程を経てアセチルCoAになり、ミトコンドリアでATPが再合成される。実はこのβ酸化という過程は様々な酵素が関わる為、ATP再合成までに時間がかかる。一方、ケトン体は細胞内に取り込まれたのち素早くアセチルCoAに変換される性質を持っている(図1)。すなわち、ケトン体は脂質としては非常に効率の良いエネルギー源なのである。ケトジェニックダイエットは、糖質を殆ど補給しない為、肝臓でこのケトン体の産生が高まる。脂質を有効利用できる身体を獲得できることが、ケトジェニックダイエットの特徴である。
ケトジェニックダイエットはアスリートのパフォーマンスを向上させるのか?
さて、脂質を効率よく利用できるという事はパフォーマンス向上に繋がるのだろうか?様々な研究の結果をまとめると、ケトジェニックダイエットがアスリートのパフォーマンス向上に有効な栄養戦略であるかどうか、まだ議論の余地があるようだ。先にも述べたように、ケトジェニックダイエットは生体内での脂質利用能力を向上させる。限られたエネルギー源である糖質を節約し、脂質を有効利用できることは、持久性アスリートにとってはポジティブな効果といえるだろう。しかし、ケトジェニックダイエットにはいくつかのデメリットもあるようで、脂質の利用能力が向上する代わりに、グリコーゲンを分解する能力が低下する可能性があると報告されている1。
実際に、エリート競歩選手にトレーニングと併せてケトジェニックダイエットを実施した研究がある。その結果、ケトジェニックダイエットを実施していない選手は10kmのレース成績が向上したのに対して、ケトジェニックダイエットを実施した選手はレース成績の向上が認められなかったことが報告されている2(図2)。この実験では、3週間ケトジェニックダイエットを摂取した群で運動時の酸素摂取量が増加していたことも報告しており、運動時のエネルギー効率が低下していた可能性が考えられる2。このほかにも、ケトジェニックダイエットを実施することにより、便秘、痙攣、イライラなどの症状が引き起こされる可能性があるとも報告されている3。
図2. エリート競歩選手における3週間のケトジェニックダイエットが10km競歩のレースパフォーマンスに与える影響 (*文献2より作成)
これらの報告を含め、現状までにケトジェニックダイエットがアスリートの運動パフォーマンスを向上させる栄養戦略になるとは言い難い。しかしながら、中にはこの食事法で結果を出しているアスリートもおり、一概に結論付けられない状況でもある。重要なことは、どのような食事法においてもまず自分に合うかどうか試してみることである。
5-5.脂質について知っておこう
5-6.脂肪酸の種類~必須脂肪酸・MCTとは