競技パフォーマンスUP

Part 120 基礎トレーニングをパフォーマンス向上に落とし込むために

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競技パフォーマンスUP

Part 120 基礎トレーニングをパフォーマンス向上に落とし込むために

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目的:ベーシックな筋力をパフォーマンスに反映させる
メリット:競技能力向上 

冬場に基礎的なウェイトトレーニングを行い、筋肥大と筋力の向上は達成できた。しかし、それが直接パフォーマンスアップにつながるわけではない。

パワーと筋力は別物だ。「パワー=筋力×速度」。すなわち力があるだけではダメで、それを爆発的に発揮できてはじめてパワーがあるということになる。それこそがパフォーマンスアップにつながるのだ。 今回は、基礎トレーニングをパフォーマンスに落とし込む為に有効なトレーニングについて解説しよう。

■プライオメトリクスとSSC 

パワーを増やすための方法が「プライオメトリクス」だ。筋肉や腱は急激に引き伸ばされると、断裂してしまわないように収縮しようとする特性がある。これを「伸張反射」と呼び、通常よりも強い力で収縮することができる。

また筋肉や腱にはエラスチンという弾性を持つ線維があり、これが引き延ばされると弾性エネルギーによりゴムが縮むように、強く収縮しようとする働きがある。

この働きをSSCStretch-Shortening Cycle(ストレッチ・ショートニング・サイクル)」と呼ぶ。誰でもジャンプするときには、一度しゃがんでから一気に跳び上がるだろう。これは無意識にSSCを利用しているのだ。

SSCを強調して通常より強いパワーを得ようとするトレーニングがプライオメトリクスであり、デプスジャンプやハードルホップなどが代表的なエクササイズである。

なお集中し、効かせて行うトレーニングでは脳が強く働いている。ここでは意識が重要だ。しかしSSCは反射的な運動であり、弾性エネルギーを利用した運動でもあるため、むしろ無意識に、無心に行うようにしたい。高く跳びあがろうとするときに、膝をこう伸ばして、腕をこう振って、などと考えていたのでは、まともに跳びあがることすらできない。

SSCの「無意識に起こる」特性は心理的抑制が働かないというメリットもある。ただしこれはデメリットでもあり、怪我を誘発する危険性も高くなる。実施の際は軽めの負荷、少なめの量で開始するように注意したい。

〇デプスジャンプ

〇ハードルホップ

■ストップ&ゴー

SSCは反動を使って行うが、実際の競技においてはむしろ「静から動」への動きが多くなる。つまり完全に止まった状態から、一気に力を発揮して身体を動かすわけだ。その動きを鍛えられるのが「ストップ&ゴー」である。

具体的にはボトムポジションで動作を静止させ、それから爆発的にウェイトを挙げるようにする。

スクワットでストップ&ゴーを行う場合について説明しよう。まずは普段使う重量(80~85%1RM)の、60~70%程度の重量のバーをセットする。そしてバーをゆっくりと下ろしてしゃがみ、ボトムポジションに達したら、そこで1秒ほど完全に静止させる。

静止して1秒経ったら、爆発的に立ち上がるのだ。立ち上がったら、またゆっくりとしゃがんでボトムで静止させ、1秒したら爆発的に持ち上げる。この繰り返しである。

一人でやると、なかなか完全に1秒止めきれずに立ち上がってしまうことが多い。その場合は後ろにパートナーに立ってもらい、しゃがんで1秒したところで拍手してもらう。そして拍手の音を聴いた途端に立ち上がるようにするのだ。

〇ストップ&ゴースクワット

ストップ&ゴーで6回程度行うと、疲労のため爆発的に立ち上がることができなくなる。粘らないと挙げられないようになったら、そこでセットを終了させる。粘って挙げるのでは、ストップ&ゴーの意味がない。

ボトムで静止させるエクササイズとしては、「ボックス・スクワット」も有効だ。これは適度な高さのボックスを用意して、その上にしゃがみこみ、尻がボックスに触れたら立ち上がるというものだ。

〇ボックススクワット

ベンチプレスの場合は胸の上で静止させたり、フロアプレスとして床で静止させたりしてから行うのも良いだろう。

■爆発的挙上

シーズンが近くなったらプライオメトリクスやストップ&ゴーを採り入れるだけでなく、通常のトレーニングでも爆発的に挙げるようにしていこう。

「モーターユニット」という言葉がある。これは一本の神経と、それが支配している筋線維維のことを指す。そしてモーターユニットの数や1本の神経が支配している筋線維の数は、筋肉の部位によって異なってくる。


ウェイトトレーニングの効率を高めるためには、できるだけ多くの筋線維を使うようにすることが必要だ。多くのモーターユニットを動員できれば、それだけ多くの筋線維を働かせることができる。そのためにはヘビーウェイトを用いることが重要であるが、軽い重量でも多くのモーターユニットを動員させる方法がある。

それが「爆発的挙上」である。一気にウェイトを持ち上げることで、多くのモーターユニットを動員することができるのだ。

18~19歳のトレーニング経験のある若者20名を被験者として、3週間のベンチプレスを行わせた研究がある(※1)。10名には爆発的に挙上するように伝え、残りの10名には自由に行わせた。

爆発的挙上グループは、平均0.8秒で挙上していた。下ろすときの速度は2秒。自由に挙げたグループは平均1.3秒で挙上し、下ろすときの速度は1.5秒だった。使用重量はどちらのグループも55%1RMであった。

このトレーニングを週2回行ったところ、爆発的挙上グループは10.2%の最大筋力向上が見られ(図1:左)、2.22%の最大速度向上が見られたのである(図1:右)。自由グループはどちらも向上が見られなかった。

55%1RMという軽い重量でも、爆発的に挙げることで筋力が向上したというわけだ。


図1.挙上速度の違いが最大挙上重量及び挙上速度の変化に与える影響(文献1より作成)


爆発的挙上は持久力競技にも効果がある。持久力系競技のアスリートが9週間に渡って様々なジャンプやレッグエクステンション、レッグプレスなどを爆発的に行ったところ、対照群と比較して5000mのランニングタイムが顕著に向上していたのだ(※2)。

シーズンが近くなったらプライオメトリクスやストップ&ゴー、爆発的挙上を駆使し、オフに鍛え上げた基礎能力をパフォーマンスに落とし込んで行こう。

【参考文献】

  • ※1: Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med. (2012)
  • ※2: Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power. J Appl Physiol (1985).
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目的:ベーシックな筋力をパフォーマンスに反映させる
メリット:競技能力向上 

冬場に基礎的なウェイトトレーニングを行い、筋肥大と筋力の向上は達成できた。しかし、それが直接パフォーマンスアップにつながるわけではない。

パワーと筋力は別物だ。「パワー=筋力×速度」。すなわち力があるだけではダメで、それを爆発的に発揮できてはじめてパワーがあるということになる。それこそがパフォーマンスアップにつながるのだ。 今回は、基礎トレーニングをパフォーマンスに落とし込む為に有効なトレーニングについて解説しよう。

■プライオメトリクスとSSC 

パワーを増やすための方法が「プライオメトリクス」だ。筋肉や腱は急激に引き伸ばされると、断裂してしまわないように収縮しようとする特性がある。これを「伸張反射」と呼び、通常よりも強い力で収縮することができる。

また筋肉や腱にはエラスチンという弾性を持つ線維があり、これが引き延ばされると弾性エネルギーによりゴムが縮むように、強く収縮しようとする働きがある。

この働きをSSCStretch-Shortening Cycle(ストレッチ・ショートニング・サイクル)」と呼ぶ。誰でもジャンプするときには、一度しゃがんでから一気に跳び上がるだろう。これは無意識にSSCを利用しているのだ。

SSCを強調して通常より強いパワーを得ようとするトレーニングがプライオメトリクスであり、デプスジャンプやハードルホップなどが代表的なエクササイズである。

なお集中し、効かせて行うトレーニングでは脳が強く働いている。ここでは意識が重要だ。しかしSSCは反射的な運動であり、弾性エネルギーを利用した運動でもあるため、むしろ無意識に、無心に行うようにしたい。高く跳びあがろうとするときに、膝をこう伸ばして、腕をこう振って、などと考えていたのでは、まともに跳びあがることすらできない。

SSCの「無意識に起こる」特性は心理的抑制が働かないというメリットもある。ただしこれはデメリットでもあり、怪我を誘発する危険性も高くなる。実施の際は軽めの負荷、少なめの量で開始するように注意したい。

〇デプスジャンプ

〇ハードルホップ

■ストップ&ゴー

SSCは反動を使って行うが、実際の競技においてはむしろ「静から動」への動きが多くなる。つまり完全に止まった状態から、一気に力を発揮して身体を動かすわけだ。その動きを鍛えられるのが「ストップ&ゴー」である。

具体的にはボトムポジションで動作を静止させ、それから爆発的にウェイトを挙げるようにする。

スクワットでストップ&ゴーを行う場合について説明しよう。まずは普段使う重量(80~85%1RM)の、60~70%程度の重量のバーをセットする。そしてバーをゆっくりと下ろしてしゃがみ、ボトムポジションに達したら、そこで1秒ほど完全に静止させる。

静止して1秒経ったら、爆発的に立ち上がるのだ。立ち上がったら、またゆっくりとしゃがんでボトムで静止させ、1秒したら爆発的に持ち上げる。この繰り返しである。

一人でやると、なかなか完全に1秒止めきれずに立ち上がってしまうことが多い。その場合は後ろにパートナーに立ってもらい、しゃがんで1秒したところで拍手してもらう。そして拍手の音を聴いた途端に立ち上がるようにするのだ。

〇ストップ&ゴースクワット

ストップ&ゴーで6回程度行うと、疲労のため爆発的に立ち上がることができなくなる。粘らないと挙げられないようになったら、そこでセットを終了させる。粘って挙げるのでは、ストップ&ゴーの意味がない。

ボトムで静止させるエクササイズとしては、「ボックス・スクワット」も有効だ。これは適度な高さのボックスを用意して、その上にしゃがみこみ、尻がボックスに触れたら立ち上がるというものだ。

〇ボックススクワット

ベンチプレスの場合は胸の上で静止させたり、フロアプレスとして床で静止させたりしてから行うのも良いだろう。

■爆発的挙上

シーズンが近くなったらプライオメトリクスやストップ&ゴーを採り入れるだけでなく、通常のトレーニングでも爆発的に挙げるようにしていこう。

「モーターユニット」という言葉がある。これは一本の神経と、それが支配している筋線維維のことを指す。そしてモーターユニットの数や1本の神経が支配している筋線維の数は、筋肉の部位によって異なってくる。


ウェイトトレーニングの効率を高めるためには、できるだけ多くの筋線維を使うようにすることが必要だ。多くのモーターユニットを動員できれば、それだけ多くの筋線維を働かせることができる。そのためにはヘビーウェイトを用いることが重要であるが、軽い重量でも多くのモーターユニットを動員させる方法がある。

それが「爆発的挙上」である。一気にウェイトを持ち上げることで、多くのモーターユニットを動員することができるのだ。

18~19歳のトレーニング経験のある若者20名を被験者として、3週間のベンチプレスを行わせた研究がある(※1)。10名には爆発的に挙上するように伝え、残りの10名には自由に行わせた。

爆発的挙上グループは、平均0.8秒で挙上していた。下ろすときの速度は2秒。自由に挙げたグループは平均1.3秒で挙上し、下ろすときの速度は1.5秒だった。使用重量はどちらのグループも55%1RMであった。

このトレーニングを週2回行ったところ、爆発的挙上グループは10.2%の最大筋力向上が見られ(図1:左)、2.22%の最大速度向上が見られたのである(図1:右)。自由グループはどちらも向上が見られなかった。

55%1RMという軽い重量でも、爆発的に挙げることで筋力が向上したというわけだ。


図1.挙上速度の違いが最大挙上重量及び挙上速度の変化に与える影響(文献1より作成)


爆発的挙上は持久力競技にも効果がある。持久力系競技のアスリートが9週間に渡って様々なジャンプやレッグエクステンション、レッグプレスなどを爆発的に行ったところ、対照群と比較して5000mのランニングタイムが顕著に向上していたのだ(※2)。

シーズンが近くなったらプライオメトリクスやストップ&ゴー、爆発的挙上を駆使し、オフに鍛え上げた基礎能力をパフォーマンスに落とし込んで行こう。

【参考文献】

  • ※1: Effect of different pushing speeds on bench press. Int J Sports Med. (2012)
  • ※2: Explosive-strength training improves 5-km running time by improving running economy and muscle power. J Appl Physiol (1985).