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国際スポーツ栄養学会(ISSN:International Society of Sports Nutrition)の「Exercise & sports nutrition review update: research & recommendation1」によると、スポーツにおけるクレアチンの効果は最もエビデンスが多く、エルゴジェニックエイドとして確固たるポジションにあります。そして、プロテインの次に多く使われているスポーツサプリメントでもあります。今回はクレアチンについて、これまでの用途だけでなく、最新の知見も加えて語ってみたいと思います。
まずは、おさらいから。
クレアチンは体内に存在する物質です。アミノ酸(グリシン、アルギニン、メチオニン)から主に腎臓と肝臓で合成され、その多く(95%)は筋肉中に存在します。
クレアチンの役割は、主に体内のエネルギー通貨でもあるATP(アデノシン三リン酸)の代謝に深く係わっています。ATPからエネルギーが放出されるとADP(アデノシン二リン酸)となり、その後ATPへ再合成されますが、クレアチンはその際に欠かせない物質です。もともとATPの量は限られており、しかもすぐに枯渇してしまうため、その場で再合成されることがパワーの発揮につながります。
クレアチンは一般成人の筋肉中に15.7g/kg(乾燥重量)存在しますが、肉を食べないベジタリアンの場合、その量は13.1gと少なくなります。食事、特に肉類からは1~2gのクレアチンを摂取できますが、毎日1~3g、クレアチニンとして尿中に排泄されてしまいます(図1)。
クレアチンの多くは体内で合成されますが、サプリメントとして摂取することで筋肉中のクレアチン含量を増加させると、スポーツにおけるパフォーマンスアップにつながるというエビデンスは多々あります。実際にクレアチン3~5gを4回/日、5~7日摂取すると、体内のクレアチンの量は18.4gまで上昇します。さらにたんぱく質や炭水化物と同時に摂取すると、20.3gまで増えます2。
クレアチンのスポーツパフォーマンスにおける効果の他に、近年とても興味深い報告がありました。
2017年のConcussionという学術雑誌に掲載されたレビュー(Deanら3)に、脳震盪(軽度の外傷性脳損傷)の治療、もしくは予防策としてのクレアチン摂取に関するエビデンスと考察がまとめられています。
クレアチンは脳で合成されるのと同時に、血中からも脳に吸収されて蓄積することがわかっています。最近の研究では、クレアチン20g/日を5日間摂り続けた場合、筋中のクレアチンの量が約20%増加するとともに、脳中の量も約10%増加することがわかっています4。サプリメントとして経口摂取したクレアチンは筋肉以外にもエネルギー要求量が高く、脳にも移行していることになります。
ヒトにおけるクレアチンの脳神経系に与える影響についての臨床研究は1報あり、1~18歳の外傷性脳損傷患者にクレアチン0.4g/体重㎏を6カ月間投与した結果、記憶喪失、認知障害、頭痛、言語障害などを緩和する効果が認められました5。
このデータはあくまでも損傷後の介入(治療)となりますが、近年、アスリートが予防としてクレアチンを摂取し、脳中の含量をあらかじめ増やしておくことで、いざ脳震盪になった際に脳へのダメージを軽減できるのではないか、という仮説が考察されています。
また動物実験においては、脳震盪を起こす前に予防としてクレアチンを飲ませておくと、脳損傷が36~50%軽減される他、ミトコンドリア機能の維持、酸化防止、ATP量の維持などの結果が得られています5。動物とヒトではクレアチンの代謝は異なりますが、ヒトでも経口摂取したクレアチンが脳に移行・蓄積することを考慮すると、予防的にクレアチンを摂取して脳震盪のダメージを軽減させる可能性は多いにある、と言ってよいかと思います。
Deanら(2017)3は、脳震盪予防のためのクレアチン摂取のメカニズムについて「脳震盪の神経病理と、細胞内でのクレアチンの役割にオーバーラップがあるのではないか」と推測しています。特に「脳の損傷後の血流低下と低酸素状態でのエネルギー(ATP)必要量の増加時のクレアチンの役割が重要」と示唆しています。その他、ATPには衝撃によって生じる細胞膜の脱分極やカルシムイオン濃度の上昇などを抑制する働き(ATPバッファー)があるので、クレアチンリン酸系の役割が重要になります。
また 間接的なエビデンスにはなりますが、Turnerら(2015)7は、脳震盪の病理の一つである脳の酸素欠乏状態において、クレアチンを経口摂取した場合の神経科学及び心理学的側面からの影響をヒトで実験しました。
クレアチン20g/日を7日間摂取した群とプラセボ群に、酸素濃度10%(通常の半分)の空気を90分吸わせ、動脈血酸素飽和度(SpO2)を80%程度に低下させた状態でさまざまな心理テストを行いました。その結果、クレアチン摂取群は心理テスト(図2)や筋電図の反応が有意に改善されました。
脳はエネルギー代謝が非常に活発な組織で、身体の2%程度という体積にもかかわらず、基礎代謝量の20%を使います。そのため、絶え間ないエネルギー供給が必要となります。しかし、脳震盪などのダメージによって酸素の供給量が減った時、クレアチンリン酸系によるエネルギー供給を万全にしておくことが、脳細胞・脳機能を救う結果につながる。その可能性は否定できません。
ラグビーやアメリカンフットボール、レスリングや柔道といったコンタクトスポーツのアスリートにとって、クレアチンの常用はパフォーマンスアップのためだけではなく、いざという時のために摂取すべきサプリメントである、といえるでしょう。
さらに、とても興味深い知見があるのでご報告したいと思います。
WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊の原因の約半数が実は男性側にあることが報告されています。その大半は「精子形成障害」。つまり精子が形成される過程で何らかの理由で劣化し、自然受精に至らないということです。また「精子無力症」といって、精子そのものは正常であるものの、運動率と前進運動率が低い。つまり、卵子に向かって泳いでいけない状態になっている症状もあります。
精子は図3のような形をしていて、鞭毛の付け根(中部)に多く存在するミトコンドリアで作られるATPを利用し、尻尾を回転させながら前進します。これは、アスリートが筋肉内で瞬発力を生み出すATPを再生するのと同じメカニズムです。
精子の運動率に深く関与しているのが、精漿(せいしょう)という精液の成分であることが報告されています8。まだその全容は解明されていませんが、精漿には精子が受精のために必要とするさまざまな生理活性物質やホルモンが含まれており、クレアチンはそのうちの一つなのです。また。精子無力症の男性不妊患者の精液中のクレアチン濃度は、正常男性より低い傾向にあることもわかっています。
さらに、男性不妊患者の精液に顕微鏡下でクレアチンを少量添加して観察すると、精子の直進運動率が向上したという報告もあります9。しかし、それは治療費の高い顕微授精の場合のみに使える方法。より自然な受精を望む場合、精液中のクレアチン濃度を上げることが望まれます。
では、どのようにそれが可能になるのでしょう? 以下は今回、我々が得た知見(妊活サプリとして特許出願済み)です。
これまで、サプリメントとして経口摂取したクレアチンが精液に移行・蓄積されるというデータはありませんでした。そこで、一般的に使われているアスリートのクレアチンローディングと同じプロトコール(20g/日を1週間、その後5g/日を3週間)で、精子無力症の男性不妊患者29名にクレアチンを飲んでもらいました。
すると精液中クレアチン濃度が、摂取後2週間でも約2倍に増加。それと連動するように、精子の運動率も有意に増加していました。ローディングを5g/日や10g/日でスタートした場合も、似たような結果を得ています。
これは画期的な発見といえます。
つまり、アスリートがクレアチンのサプリメントを摂取して筋中のクレアチン濃度を上げるように、経口摂取で精液のクレアチン濃度を短期的に上げ、精子の動きをよくすることができるのです。
そして2週間という短期で効果を得られる、ということは、パートナーの排卵日に合わせてクレアチンを飲み始めればいい、ということになります。これも大きなメリットです。
このように、さまざまな有用性が明らかになりつつあるクレアチン。今後アスリートのみならず、幅広い層での活用が期待されています。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。
国際スポーツ栄養学会(ISSN:International Society of Sports Nutrition)の「Exercise & sports nutrition review update: research & recommendation1」によると、スポーツにおけるクレアチンの効果は最もエビデンスが多く、エルゴジェニックエイドとして確固たるポジションにあります。そして、プロテインの次に多く使われているスポーツサプリメントでもあります。今回はクレアチンについて、これまでの用途だけでなく、最新の知見も加えて語ってみたいと思います。
まずは、おさらいから。
クレアチンは体内に存在する物質です。アミノ酸(グリシン、アルギニン、メチオニン)から主に腎臓と肝臓で合成され、その多く(95%)は筋肉中に存在します。
クレアチンの役割は、主に体内のエネルギー通貨でもあるATP(アデノシン三リン酸)の代謝に深く係わっています。ATPからエネルギーが放出されるとADP(アデノシン二リン酸)となり、その後ATPへ再合成されますが、クレアチンはその際に欠かせない物質です。もともとATPの量は限られており、しかもすぐに枯渇してしまうため、その場で再合成されることがパワーの発揮につながります。
クレアチンは一般成人の筋肉中に15.7g/kg(乾燥重量)存在しますが、肉を食べないベジタリアンの場合、その量は13.1gと少なくなります。食事、特に肉類からは1~2gのクレアチンを摂取できますが、毎日1~3g、クレアチニンとして尿中に排泄されてしまいます(図1)。
クレアチンの多くは体内で合成されますが、サプリメントとして摂取することで筋肉中のクレアチン含量を増加させると、スポーツにおけるパフォーマンスアップにつながるというエビデンスは多々あります。実際にクレアチン3~5gを4回/日、5~7日摂取すると、体内のクレアチンの量は18.4gまで上昇します。さらにたんぱく質や炭水化物と同時に摂取すると、20.3gまで増えます2。
クレアチンのスポーツパフォーマンスにおける効果の他に、近年とても興味深い報告がありました。
2017年のConcussionという学術雑誌に掲載されたレビュー(Deanら3)に、脳震盪(軽度の外傷性脳損傷)の治療、もしくは予防策としてのクレアチン摂取に関するエビデンスと考察がまとめられています。
クレアチンは脳で合成されるのと同時に、血中からも脳に吸収されて蓄積することがわかっています。最近の研究では、クレアチン20g/日を5日間摂り続けた場合、筋中のクレアチンの量が約20%増加するとともに、脳中の量も約10%増加することがわかっています4。サプリメントとして経口摂取したクレアチンは筋肉以外にもエネルギー要求量が高く、脳にも移行していることになります。
ヒトにおけるクレアチンの脳神経系に与える影響についての臨床研究は1報あり、1~18歳の外傷性脳損傷患者にクレアチン0.4g/体重㎏を6カ月間投与した結果、記憶喪失、認知障害、頭痛、言語障害などを緩和する効果が認められました5。
このデータはあくまでも損傷後の介入(治療)となりますが、近年、アスリートが予防としてクレアチンを摂取し、脳中の含量をあらかじめ増やしておくことで、いざ脳震盪になった際に脳へのダメージを軽減できるのではないか、という仮説が考察されています。
また動物実験においては、脳震盪を起こす前に予防としてクレアチンを飲ませておくと、脳損傷が36~50%軽減される他、ミトコンドリア機能の維持、酸化防止、ATP量の維持などの結果が得られています5。動物とヒトではクレアチンの代謝は異なりますが、ヒトでも経口摂取したクレアチンが脳に移行・蓄積することを考慮すると、予防的にクレアチンを摂取して脳震盪のダメージを軽減させる可能性は多いにある、と言ってよいかと思います。
Deanら(2017)3は、脳震盪予防のためのクレアチン摂取のメカニズムについて「脳震盪の神経病理と、細胞内でのクレアチンの役割にオーバーラップがあるのではないか」と推測しています。特に「脳の損傷後の血流低下と低酸素状態でのエネルギー(ATP)必要量の増加時のクレアチンの役割が重要」と示唆しています。その他、ATPには衝撃によって生じる細胞膜の脱分極やカルシムイオン濃度の上昇などを抑制する働き(ATPバッファー)があるので、クレアチンリン酸系の役割が重要になります。
また 間接的なエビデンスにはなりますが、Turnerら(2015)7は、脳震盪の病理の一つである脳の酸素欠乏状態において、クレアチンを経口摂取した場合の神経科学及び心理学的側面からの影響をヒトで実験しました。
クレアチン20g/日を7日間摂取した群とプラセボ群に、酸素濃度10%(通常の半分)の空気を90分吸わせ、動脈血酸素飽和度(SpO2)を80%程度に低下させた状態でさまざまな心理テストを行いました。その結果、クレアチン摂取群は心理テスト(図2)や筋電図の反応が有意に改善されました。
脳はエネルギー代謝が非常に活発な組織で、身体の2%程度という体積にもかかわらず、基礎代謝量の20%を使います。そのため、絶え間ないエネルギー供給が必要となります。しかし、脳震盪などのダメージによって酸素の供給量が減った時、クレアチンリン酸系によるエネルギー供給を万全にしておくことが、脳細胞・脳機能を救う結果につながる。その可能性は否定できません。
ラグビーやアメリカンフットボール、レスリングや柔道といったコンタクトスポーツのアスリートにとって、クレアチンの常用はパフォーマンスアップのためだけではなく、いざという時のために摂取すべきサプリメントである、といえるでしょう。
さらに、とても興味深い知見があるのでご報告したいと思います。
WHO(世界保健機関)の調査によると、不妊の原因の約半数が実は男性側にあることが報告されています。その大半は「精子形成障害」。つまり精子が形成される過程で何らかの理由で劣化し、自然受精に至らないということです。また「精子無力症」といって、精子そのものは正常であるものの、運動率と前進運動率が低い。つまり、卵子に向かって泳いでいけない状態になっている症状もあります。
精子は図3のような形をしていて、鞭毛の付け根(中部)に多く存在するミトコンドリアで作られるATPを利用し、尻尾を回転させながら前進します。これは、アスリートが筋肉内で瞬発力を生み出すATPを再生するのと同じメカニズムです。
精子の運動率に深く関与しているのが、精漿(せいしょう)という精液の成分であることが報告されています8。まだその全容は解明されていませんが、精漿には精子が受精のために必要とするさまざまな生理活性物質やホルモンが含まれており、クレアチンはそのうちの一つなのです。また。精子無力症の男性不妊患者の精液中のクレアチン濃度は、正常男性より低い傾向にあることもわかっています。
さらに、男性不妊患者の精液に顕微鏡下でクレアチンを少量添加して観察すると、精子の直進運動率が向上したという報告もあります9。しかし、それは治療費の高い顕微授精の場合のみに使える方法。より自然な受精を望む場合、精液中のクレアチン濃度を上げることが望まれます。
では、どのようにそれが可能になるのでしょう? 以下は今回、我々が得た知見(妊活サプリとして特許出願済み)です。
これまで、サプリメントとして経口摂取したクレアチンが精液に移行・蓄積されるというデータはありませんでした。そこで、一般的に使われているアスリートのクレアチンローディングと同じプロトコール(20g/日を1週間、その後5g/日を3週間)で、精子無力症の男性不妊患者29名にクレアチンを飲んでもらいました。
すると精液中クレアチン濃度が、摂取後2週間でも約2倍に増加。それと連動するように、精子の運動率も有意に増加していました。ローディングを5g/日や10g/日でスタートした場合も、似たような結果を得ています。
これは画期的な発見といえます。
つまり、アスリートがクレアチンのサプリメントを摂取して筋中のクレアチン濃度を上げるように、経口摂取で精液のクレアチン濃度を短期的に上げ、精子の動きをよくすることができるのです。
そして2週間という短期で効果を得られる、ということは、パートナーの排卵日に合わせてクレアチンを飲み始めればいい、ということになります。これも大きなメリットです。
このように、さまざまな有用性が明らかになりつつあるクレアチン。今後アスリートのみならず、幅広い層での活用が期待されています。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。