健康・体力・美容UP
世界中で猛威を振るう、新型コロナウイルスCOVID-19。ワクチン開発の明るいニュースはあるものの、収束の見通しはついていないどころか、第三波の真っただ中にあります。(※2020年12月時点)
感染者でも無症状や軽症の人もいれば、容体が急変して亡くなる方もいらっしゃいます。ただし日本は欧米諸国と比べて感染者数も死者数も圧倒的に少なく、この差について多くの科学者がさまざまな考察をしています。
前回はCOVID-19とビタミンDの関係について書きましたが、今回は栄養の側面から考察してみようと思います。
皆さんは 「サイトカインストーム」という言葉を聞いたことはありますか?
通常は感染した細胞が「サイトカイン」という物質を出し、全身の免疫細胞に対し、身体を感染から守る信号を送ります。しかし、COVID-19に感染して重症化する過程では、特に肺において感染した細胞が過剰にサイトカインを放出。自身の免疫細胞が、正常な細胞も攻撃してしまいます。
つまり、サイトカインの嵐(ストーム)によって炎症が暴走した結果、肺炎が悪化し、ひいては多臓器不全で亡くなってしまうのです1(図1)。肺炎が急に悪化するこの状態を「ARDS(急性呼吸窮迫症候群)」といいます。
図1. サイトカインストーム 文献1より著者改編
実は前職で、ARDSに非常に効果のある栄養剤の開発に携わっていました。OXEPA(Abbott Laboratories社)といい、その主たる成分はEPA(エイコサペンタエン酸)とGLA(γリノレン酸)という必須脂肪酸(体内では作れないため、食品から摂取する必要がある脂肪酸)です。
前者は魚油(特に青魚)に多く含まれるオメガ3系の脂肪酸、後者は月見草油などに多く含まれ、体内でDGLA(ジホモγリノレン酸)というオメガ6系の脂肪酸に変換されます。
EPAとGLA(DGLA)には抗炎症作用があり、そのメカニズムは二つあります。一つは免疫細胞がアラキドン酸から炎症性の「エイコサノイド」という物質を作り出す酵素において、アラキドン酸と拮抗すること。もう一つはEPAやGLA(DGLA)から作られるエイコサノイドが低炎症性であることです。
※EPAとGLAのコンビネーションによる抗炎症効果の話は、同じく炎症の一つである関節炎のところでも書かせていただきましたので、参考にして下さい。(https://www.dnszone.jp/magazine/2020/0428-001.php)
さらに、魚油の中にはDHA(ドコサヘキサエン酸)というオメガ3系の必須脂肪酸が共存しています。EPAもDHAも、体内でプロテクチン2やレゾルビン3という抗炎症物質になることが知られています。
EPAとGLAを主原料として抗酸化ビタミンも強化したOXEPAを、ICU(集中管理室)において、ARDSを伴う重篤な敗血症患者に投与したところ、一般の栄養剤を投与した対照群と比べ生存率、人工呼吸管理日数、ICU在室日数、臓器不全発症率などに大幅な改善が見られました4(表1)。
表1. OXEPA投与による改善効果 文献4より著者作成
つまり、OXEPAはサイトカインストームを防ぎ、患者の予後をいい方向に変えることができると考えられます5。
実は、COVID-19 感染によるARDSなどの症状に対するEPAやDHAの予防・治療効果を検証する臨床試験が今年、世界で少なくとも14件が立ち上げられ、現在進行中です6。その中には魚油サプリメントを使った試験もあれば、医薬品として存在する高EPA製剤であるEPAspire(KDPharma社)やVascepa(Amarin社)も試されていています。
※国内でもエパデール(持田製薬)が同じく高EPAの医薬品としてありますが、COVID-19 感染に対する臨床試験が行われているかどうかの報告はありません。
ワクチン開発も重要ですが、栄養素であるオメガ脂肪酸によってCOVID-19 感染症の予後を改善できれば素晴らしいこと。これらの臨床研究の結果発表が待ち遠しいところです。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。
世界中で猛威を振るう、新型コロナウイルスCOVID-19。ワクチン開発の明るいニュースはあるものの、収束の見通しはついていないどころか、第三波の真っただ中にあります。(※2020年12月時点)
感染者でも無症状や軽症の人もいれば、容体が急変して亡くなる方もいらっしゃいます。ただし日本は欧米諸国と比べて感染者数も死者数も圧倒的に少なく、この差について多くの科学者がさまざまな考察をしています。
前回はCOVID-19とビタミンDの関係について書きましたが、今回は栄養の側面から考察してみようと思います。
皆さんは 「サイトカインストーム」という言葉を聞いたことはありますか?
通常は感染した細胞が「サイトカイン」という物質を出し、全身の免疫細胞に対し、身体を感染から守る信号を送ります。しかし、COVID-19に感染して重症化する過程では、特に肺において感染した細胞が過剰にサイトカインを放出。自身の免疫細胞が、正常な細胞も攻撃してしまいます。
つまり、サイトカインの嵐(ストーム)によって炎症が暴走した結果、肺炎が悪化し、ひいては多臓器不全で亡くなってしまうのです1(図1)。肺炎が急に悪化するこの状態を「ARDS(急性呼吸窮迫症候群)」といいます。
図1. サイトカインストーム 文献1より著者改編
実は前職で、ARDSに非常に効果のある栄養剤の開発に携わっていました。OXEPA(Abbott Laboratories社)といい、その主たる成分はEPA(エイコサペンタエン酸)とGLA(γリノレン酸)という必須脂肪酸(体内では作れないため、食品から摂取する必要がある脂肪酸)です。
前者は魚油(特に青魚)に多く含まれるオメガ3系の脂肪酸、後者は月見草油などに多く含まれ、体内でDGLA(ジホモγリノレン酸)というオメガ6系の脂肪酸に変換されます。
EPAとGLA(DGLA)には抗炎症作用があり、そのメカニズムは二つあります。一つは免疫細胞がアラキドン酸から炎症性の「エイコサノイド」という物質を作り出す酵素において、アラキドン酸と拮抗すること。もう一つはEPAやGLA(DGLA)から作られるエイコサノイドが低炎症性であることです。
※EPAとGLAのコンビネーションによる抗炎症効果の話は、同じく炎症の一つである関節炎のところでも書かせていただきましたので、参考にして下さい。(https://www.dnszone.jp/magazine/2020/0428-001.php)
さらに、魚油の中にはDHA(ドコサヘキサエン酸)というオメガ3系の必須脂肪酸が共存しています。EPAもDHAも、体内でプロテクチン2やレゾルビン3という抗炎症物質になることが知られています。
EPAとGLAを主原料として抗酸化ビタミンも強化したOXEPAを、ICU(集中管理室)において、ARDSを伴う重篤な敗血症患者に投与したところ、一般の栄養剤を投与した対照群と比べ生存率、人工呼吸管理日数、ICU在室日数、臓器不全発症率などに大幅な改善が見られました4(表1)。
表1. OXEPA投与による改善効果 文献4より著者作成
つまり、OXEPAはサイトカインストームを防ぎ、患者の予後をいい方向に変えることができると考えられます5。
実は、COVID-19 感染によるARDSなどの症状に対するEPAやDHAの予防・治療効果を検証する臨床試験が今年、世界で少なくとも14件が立ち上げられ、現在進行中です6。その中には魚油サプリメントを使った試験もあれば、医薬品として存在する高EPA製剤であるEPAspire(KDPharma社)やVascepa(Amarin社)も試されていています。
※国内でもエパデール(持田製薬)が同じく高EPAの医薬品としてありますが、COVID-19 感染に対する臨床試験が行われているかどうかの報告はありません。
ワクチン開発も重要ですが、栄養素であるオメガ脂肪酸によってCOVID-19 感染症の予後を改善できれば素晴らしいこと。これらの臨床研究の結果発表が待ち遠しいところです。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。