健康・体力・美容UP
BCAAのように、スポーツ栄養と臨床栄養の両分野において使われているアミノ酸は他にもあります。例えばL-グルタミン(99%顆粒NP)は、消化性潰瘍治療剤という医薬品(薬価¥6.4/g)として使われています。
L-グルタミンの医療利用は、特にICUや救急患者における臨床試験が数多く存在します。ところが最近のメタ解析によると、その効果の結論は出ていないようです。一方、スポーツ栄養におけるL-グルタミンは、マラソン後7日間の上気道感染症発症率の低下やグリコーゲンや糖利用改善などのデータが存在し1,2、現在、多くのアスリートが利用しています。しかし、スポーツ栄養におけるメリットに関してもいまだ賛否両論あるようです。
またEPA(エイコサペンタエン酸、もしくはイコサペント酸)はオメガ3系脂肪酸の一つで、さまざまな効能・効果が報告されていることをご存じの方も多いと思います。その適応は多岐にわたり、これも一般向け及びスポーツ向けサプリメント、そして医薬品として利用されています。
食品分野では「中性脂肪の低下」などの機能性表示が認められ、医薬品では「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」「高脂血症」の適応になっています。また、臨床栄養の現場ではEPAの抗炎症効果を利用した製品もあります。このように、一つの栄養素が広域にわたってわれわれの健康に関与し、日々の生活をサポートしているのはまれです。でも、EPAの特性やメカニズムを解き明かすと納得できます。
EPAはそもそも、われわれの体内ではほとんど合成されない脂肪酸です。青魚などの食品や、サプリメントからの摂取が必要な必須脂肪酸でもあります。人間が口から摂取したEPAは腸で吸収され、体内のあらゆる細胞に取り込まれます。
特に重要なのが、赤血球と免疫細胞(白血球や血小板)の細胞膜への取り込み。これはEPAの作用の基本です。赤血球の細胞膜にEPAが組み込まれることによって、細胞そのものの弾力性が増加します。すると赤血球が狭い毛細血管をすり抜けられるようになり、血液の流れもよくなることで、血圧が低下。身体の隅々まで、酸素や栄養素を運搬できるようになります。さらに、赤血球そのものが柔らかいので、外からの圧力による破壊が減ります。水が少しだけ入ったフニャフニャな風船を思い浮かべてください。そして血管細胞においても、血管の弾力性が増すことがわかっています。
免疫細胞は細胞膜にある脂肪酸を材料として、さまざまな物質を生成し、免疫反応を引き起こします。通常は炎症性の物質の原料となるアラキドン酸というオメガ6系の脂肪酸が多く存在し、それにより炎症反応が起こります。ところが、EPAを摂取していると細胞膜のEPAの比率が増え、アラキドン酸が減ることで、アラキドン酸からの炎症性物質の産生量が減少します。さらに、同じメカニズムでEPAから作られる物質は抗炎症性なので、炎症性物質が減るとともに抗炎症物質が増え、ダブルの抗炎症効果が生まれます。
これらのメカニズムを利用したのが「エパデール」という医薬品(イコサペント酸エチル)です。通常の魚油にはEPAがトリグリセリド(3つの脂肪酸がグリセリンに付いた脂質の形状)として存在していて、濃度は10%程度です。それに対しエパデールは、EPAが単体(エチル型)で、高い濃度(96.5%以上)で含まれた製品です。効率的にEPAを摂取することが可能で早く作用するので、医薬品として効能・効果が認められています。
一方、スポーツ栄養でのEPAは、魚油を濃縮させたサプリメントです。エパデールと同じメカニズムが、持久力向上や筋肉や関節へのダメージ軽減など、アスリートのサポートに役立っています。順天堂大学では駅伝選手12名を無作為に2群に分け、1群にはEPAを毎日1.6g摂取してもらい、コントロール群にはプラセボとしてオリーブ油を13週間のトレーニング期間中に摂取してもらいました。その結果、1万メートル走行記録がコントロール群では5秒短縮した一方、EPA群では51秒も短縮したというデータがあります3。
また、30日間毎日EPA 324㎎を摂取後に40分間のベンチステップで負荷をかけた場合、EPA摂取群では運動後の筋肉痛が緩和した、というデータもあります4。
そもそも栄養素が医薬品となっているわが国の食薬区分のあり方は、国際的にも歪んでいます。厚生労働省によって見直し作業が続いてはいるものの、いろいろと利権が絡んでおり、あまり大きな改革には至らないでしょう。セルフメディケーションを推進して医療費の圧迫を軽減する努力をする前に、医薬品扱いのアミノ酸はなくすべきでしょう。もしくは、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)と同じく、健康の維持増進目的で購入したスポーツサプリメントも、控除の対象にするべきではないでしょうか。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。
BCAAのように、スポーツ栄養と臨床栄養の両分野において使われているアミノ酸は他にもあります。例えばL-グルタミン(99%顆粒NP)は、消化性潰瘍治療剤という医薬品(薬価¥6.4/g)として使われています。
L-グルタミンの医療利用は、特にICUや救急患者における臨床試験が数多く存在します。ところが最近のメタ解析によると、その効果の結論は出ていないようです。一方、スポーツ栄養におけるL-グルタミンは、マラソン後7日間の上気道感染症発症率の低下やグリコーゲンや糖利用改善などのデータが存在し1,2、現在、多くのアスリートが利用しています。しかし、スポーツ栄養におけるメリットに関してもいまだ賛否両論あるようです。
またEPA(エイコサペンタエン酸、もしくはイコサペント酸)はオメガ3系脂肪酸の一つで、さまざまな効能・効果が報告されていることをご存じの方も多いと思います。その適応は多岐にわたり、これも一般向け及びスポーツ向けサプリメント、そして医薬品として利用されています。
食品分野では「中性脂肪の低下」などの機能性表示が認められ、医薬品では「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」「高脂血症」の適応になっています。また、臨床栄養の現場ではEPAの抗炎症効果を利用した製品もあります。このように、一つの栄養素が広域にわたってわれわれの健康に関与し、日々の生活をサポートしているのはまれです。でも、EPAの特性やメカニズムを解き明かすと納得できます。
EPAはそもそも、われわれの体内ではほとんど合成されない脂肪酸です。青魚などの食品や、サプリメントからの摂取が必要な必須脂肪酸でもあります。人間が口から摂取したEPAは腸で吸収され、体内のあらゆる細胞に取り込まれます。
特に重要なのが、赤血球と免疫細胞(白血球や血小板)の細胞膜への取り込み。これはEPAの作用の基本です。赤血球の細胞膜にEPAが組み込まれることによって、細胞そのものの弾力性が増加します。すると赤血球が狭い毛細血管をすり抜けられるようになり、血液の流れもよくなることで、血圧が低下。身体の隅々まで、酸素や栄養素を運搬できるようになります。さらに、赤血球そのものが柔らかいので、外からの圧力による破壊が減ります。水が少しだけ入ったフニャフニャな風船を思い浮かべてください。そして血管細胞においても、血管の弾力性が増すことがわかっています。
免疫細胞は細胞膜にある脂肪酸を材料として、さまざまな物質を生成し、免疫反応を引き起こします。通常は炎症性の物質の原料となるアラキドン酸というオメガ6系の脂肪酸が多く存在し、それにより炎症反応が起こります。ところが、EPAを摂取していると細胞膜のEPAの比率が増え、アラキドン酸が減ることで、アラキドン酸からの炎症性物質の産生量が減少します。さらに、同じメカニズムでEPAから作られる物質は抗炎症性なので、炎症性物質が減るとともに抗炎症物質が増え、ダブルの抗炎症効果が生まれます。
これらのメカニズムを利用したのが「エパデール」という医薬品(イコサペント酸エチル)です。通常の魚油にはEPAがトリグリセリド(3つの脂肪酸がグリセリンに付いた脂質の形状)として存在していて、濃度は10%程度です。それに対しエパデールは、EPAが単体(エチル型)で、高い濃度(96.5%以上)で含まれた製品です。効率的にEPAを摂取することが可能で早く作用するので、医薬品として効能・効果が認められています。
一方、スポーツ栄養でのEPAは、魚油を濃縮させたサプリメントです。エパデールと同じメカニズムが、持久力向上や筋肉や関節へのダメージ軽減など、アスリートのサポートに役立っています。順天堂大学では駅伝選手12名を無作為に2群に分け、1群にはEPAを毎日1.6g摂取してもらい、コントロール群にはプラセボとしてオリーブ油を13週間のトレーニング期間中に摂取してもらいました。その結果、1万メートル走行記録がコントロール群では5秒短縮した一方、EPA群では51秒も短縮したというデータがあります3。
また、30日間毎日EPA 324㎎を摂取後に40分間のベンチステップで負荷をかけた場合、EPA摂取群では運動後の筋肉痛が緩和した、というデータもあります4。
そもそも栄養素が医薬品となっているわが国の食薬区分のあり方は、国際的にも歪んでいます。厚生労働省によって見直し作業が続いてはいるものの、いろいろと利権が絡んでおり、あまり大きな改革には至らないでしょう。セルフメディケーションを推進して医療費の圧迫を軽減する努力をする前に、医薬品扱いのアミノ酸はなくすべきでしょう。もしくは、セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)と同じく、健康の維持増進目的で購入したスポーツサプリメントも、控除の対象にするべきではないでしょうか。
栄養学博士、(株)DNS 執行役員
米国オキシデンタル大学卒業後、㈱協和発酵バイオでアミノ酸研究に従事する中で、イリノイ大学で栄養学の博士号を取得。以降、外資企業で栄養剤ビジネス、商品開発の責任者を歴任した。日本へ帰国後2015年から、ウェアブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店・㈱ドームのサプリメントブランド「DNS」にて責任者を務める。2020年より分社化した㈱DNSでサイエンティフィックオフィサーを務める。