競技パフォーマンスUP

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。最終回 東海大学シーゲイルズが「約束の場所」でつかんだもの。

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。最終回
東海大学シーゲイルズが「約束の場所」でつかんだもの。

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フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。最終回 東海大学シーゲイルズが「約束の場所」でつかんだもの。

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。最終回
東海大学シーゲイルズが「約束の場所」でつかんだもの。

圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえてリーグ戦を制し、大学選手権を勝ち進んだ東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将のもと、たどり着いた大学選手権決勝の舞台。絶対王者・帝京大と交わり合う「約束の場所」で、彼らは何を感じ、何を得たのか。現在オーストラリア滞在により不在の木村季由GM兼監督に代わり、八百則和コーチに話を聞いた。
(※インタビューは2016年5月に実施)


■「脚は、最後まで残っている」

「昨年度を振り返ると、チームとしてやろうとしていたことをしっかりできたと思います。確かに、打倒・帝京という目標には届きませんでした。でも、中途半端に終わったチームでは決してなかった。彼らは持てる力を出し切りましたが、それでも帝京さんにはまだまだ及ばない部分がたくさんあったと思います」

語るのは、東海大学ラグビー部シーゲイルズの八百則和コーチ。昨シーズン、東海大はリーグ戦、大学選手権ともに手に汗を握る接戦を逆転で制し、勝ち上がっていった。リーグ最終戦の流通経済大との全勝対決は、後半終了間際にモールからのトライとゴールで同点。ロスタイムに勝ち越しトライを奪い、38対31で勝利。大学選手権準決勝では、強力FWを擁する明治大と真っ向勝負。前半は明治ペースで終わるも、後半に主導権を挽回。7-19の劣勢で迎えた後半に3トライを奪い、28対19で逆転勝ちを果たす。その要因となったのがフィットネス。「質、量ともに歴代で一番」と自負する走り込みで作った旺盛な運動量を原動力に、後半20分以降の苦しい時間帯も動き続けた。


東海大学ラグビー部 八百則和コーチ

「年間を通じて、ランニングフィットネスを重点的に強化していました。特にリーグ戦終盤からスプリントの量を増やし、練習強度をアップしました。行ったのは100mのインターバル走を10本、といったシンプルなメニューですが、シーズンが深まるにつれて本数を増やし、強度を上げていきました。またゲームシチュエーションの練習の中で、体力が落ちている時にどうコミュニケーションを取るか、チームとしてやろうとしていることをきつい状況でもやれるか、ということもチェックしました。これは非常に効果があったと思います。負けていた明治戦の終盤でも『脚は、最後まで残っている』という確信がありましたし、逆転できたのは決して偶然ではないと思っています」

年間を通じてしっかりと取り組んでいるウエイトトレーニングも、功を奏した。

「木村監督が原将浩ストレングスコーチに『多少の疲労は残しても構わないから、筋肥大させるためのトレーニングメニューも継続してほしい』と伝え、そのようにメニューを組んでいただきました。疲労を残さぬよう負荷を減らすと、どうしても身体が小さくなるので…。

ウエイトトレーニングは大きな試合の数日前でも、通常通り行いました。ボリュームも負荷も基本的には落としていません。コンディションを考慮し、やりすぎないよう多少のコントロールを加えた程度です。何より選手達自身に、最後まで身体を大きくし続けたいという気持ちがありましたから、サイズはシーズンを通じて維持できたと思います」


■「フィジカル」と「フィットネス」。そして「技術」と「状況判断」。

迎えた大学選手権決勝。相手となった絶対王者・帝京大とは春に2度の練習試合を行い、いずれも敗北。しかし点差は縮まりつつあり、実力が接近しているのは明らかだった。お互い、小手先のプレーはしない。大学選手権決勝の前半は、手の内を知り尽くした同士ががっぷり四つで組み合う展開となった。

「春の帝京はとにかくFWが前へ前へ出て、身体を当ててきました。でも本番の帝京が、それに加えてBKによる外への展開を狙ってくる予測はついていました。実際にウチのディフェンスは前半はしっかり機能しましたし、帝京さんのミスもあって、粘ることができました。

しかし後半になると、フィジカルの差が徐々に表れてきた。そして後半20分からの勝負で、残念ながら足が止まってしまった。前半から積み重ねてきた帝京さんの一つ一つのハードなコンタクト。その強さが積み重なり、疲労が蓄積した結果です。前半すぐにウチにケガ人が出るなど不運もあったのですが、それを含めても彼らが一枚上。フィジカルの他、スキルや状況判断、選手同士のコミュニケーションにも余裕を感じましたね。対するウチは余裕がなく、それまでできていたことができなくなっていった。そんな印象です」

しかし、この戦いで得られたものも多かった。これまで売りにしてきた、しっかりとウエイトトレーニングを重ねることで作り上げた屈強なフィジカル。今後はそれをさらに向上させながら、最初から最後までハードなコンタクトを続け、動き続けるフィットネスを養っていく。それが高いスキルを維持させ、ゲームの状況の正しい理解と判断を促すことで、結果的に高いパフォーマンスを発揮することになる。

「これまで、まずはウエイトトレーニングにより身体作りを重視して、フィジカルの強い選手を作り上げてきました。そのメソッドが正しかったことには今も確信を持っています。われわれは原コーチの指導体制に絶大の信頼を置いていますし、今後もそれが揺らぐことはありません。

そして昨シーズン終盤のフィットネス強化は、間違いなく成功でした。あの時期にやってよかったと思いますし、それは、われわれコーチ陣も全員が実感しています。ですから今後必要なのは、ウエイトトレーニングで作る強いフィジカルと、ハードなコンタクトをしながら動き続けるフィットネスの両輪を回していくことだと考えています。それにより正確なスキルが育ち、正しい状況判断が可能になり、高いパフォーマンスを発揮できる。これこそが、木村監督が常に言っている『技術とフィジカルは表裏一体』という言葉を表していると思います。

特に大事なのが、1年生時の身体作りです。下級生で身体作りがきっちりできていないと、ケガをしてしまう。それが原因で伸び悩むのが一番もったいない。1年目でそこをしっかりやってから、正しいスキルを身につけていけばいいと思います。

昨年の4年生は、サプリメントを本格的に導入して栄養指導を行い、身体を作り始めた年に入学してきた選手でした。ですから身体作りへの意識が高く、昨年のキャプテン藤田貴大(FL)は7~8㎏キロ、石井魁(WTB)は8~10㎏、ほぼ筋肉で体重を増やし、立派な選手に成長してくれました。そして昨年は、大きなケガを繰り返すような選手がいなかった。これまでのフィジカル強化への取り組みが、しっかりと結実した年だったと思います。そして今後も、私達のフィジカル強化の方針がぶれることはありません」

昨年のメンバーのうち、約4割が卒業で抜けた。だが、目標が揺らぐことはまったくない。絶対王者に勝つために、日々、質の高い練習と身体作りをコツコツと積み重ねる。それだけだ。シーゲイルズの高き壁への挑戦は、これからも続いていく。


その2を読む




Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえてリーグ戦を制し、大学選手権を勝ち進んだ東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将のもと、たどり着いた大学選手権決勝の舞台。絶対王者・帝京大と交わり合う「約束の場所」で、彼らは何を感じ、何を得たのか。現在オーストラリア滞在により不在の木村季由GM兼監督に代わり、八百則和コーチに話を聞いた。
(※インタビューは2016年5月に実施)


■「脚は、最後まで残っている」

「昨年度を振り返ると、チームとしてやろうとしていたことをしっかりできたと思います。確かに、打倒・帝京という目標には届きませんでした。でも、中途半端に終わったチームでは決してなかった。彼らは持てる力を出し切りましたが、それでも帝京さんにはまだまだ及ばない部分がたくさんあったと思います」

語るのは、東海大学ラグビー部シーゲイルズの八百則和コーチ。昨シーズン、東海大はリーグ戦、大学選手権ともに手に汗を握る接戦を逆転で制し、勝ち上がっていった。リーグ最終戦の流通経済大との全勝対決は、後半終了間際にモールからのトライとゴールで同点。ロスタイムに勝ち越しトライを奪い、38対31で勝利。大学選手権準決勝では、強力FWを擁する明治大と真っ向勝負。前半は明治ペースで終わるも、後半に主導権を挽回。7-19の劣勢で迎えた後半に3トライを奪い、28対19で逆転勝ちを果たす。その要因となったのがフィットネス。「質、量ともに歴代で一番」と自負する走り込みで作った旺盛な運動量を原動力に、後半20分以降の苦しい時間帯も動き続けた。


東海大学ラグビー部 八百則和コーチ

「年間を通じて、ランニングフィットネスを重点的に強化していました。特にリーグ戦終盤からスプリントの量を増やし、練習強度をアップしました。行ったのは100mのインターバル走を10本、といったシンプルなメニューですが、シーズンが深まるにつれて本数を増やし、強度を上げていきました。またゲームシチュエーションの練習の中で、体力が落ちている時にどうコミュニケーションを取るか、チームとしてやろうとしていることをきつい状況でもやれるか、ということもチェックしました。これは非常に効果があったと思います。負けていた明治戦の終盤でも『脚は、最後まで残っている』という確信がありましたし、逆転できたのは決して偶然ではないと思っています」

年間を通じてしっかりと取り組んでいるウエイトトレーニングも、功を奏した。

「木村監督が原将浩ストレングスコーチに『多少の疲労は残しても構わないから、筋肥大させるためのトレーニングメニューも継続してほしい』と伝え、そのようにメニューを組んでいただきました。疲労を残さぬよう負荷を減らすと、どうしても身体が小さくなるので…。

ウエイトトレーニングは大きな試合の数日前でも、通常通り行いました。ボリュームも負荷も基本的には落としていません。コンディションを考慮し、やりすぎないよう多少のコントロールを加えた程度です。何より選手達自身に、最後まで身体を大きくし続けたいという気持ちがありましたから、サイズはシーズンを通じて維持できたと思います」


■「フィジカル」と「フィットネス」。そして「技術」と「状況判断」。

迎えた大学選手権決勝。相手となった絶対王者・帝京大とは春に2度の練習試合を行い、いずれも敗北。しかし点差は縮まりつつあり、実力が接近しているのは明らかだった。お互い、小手先のプレーはしない。大学選手権決勝の前半は、手の内を知り尽くした同士ががっぷり四つで組み合う展開となった。

「春の帝京はとにかくFWが前へ前へ出て、身体を当ててきました。でも本番の帝京が、それに加えてBKによる外への展開を狙ってくる予測はついていました。実際にウチのディフェンスは前半はしっかり機能しましたし、帝京さんのミスもあって、粘ることができました。

しかし後半になると、フィジカルの差が徐々に表れてきた。そして後半20分からの勝負で、残念ながら足が止まってしまった。前半から積み重ねてきた帝京さんの一つ一つのハードなコンタクト。その強さが積み重なり、疲労が蓄積した結果です。前半すぐにウチにケガ人が出るなど不運もあったのですが、それを含めても彼らが一枚上。フィジカルの他、スキルや状況判断、選手同士のコミュニケーションにも余裕を感じましたね。対するウチは余裕がなく、それまでできていたことができなくなっていった。そんな印象です」

しかし、この戦いで得られたものも多かった。これまで売りにしてきた、しっかりとウエイトトレーニングを重ねることで作り上げた屈強なフィジカル。今後はそれをさらに向上させながら、最初から最後までハードなコンタクトを続け、動き続けるフィットネスを養っていく。それが高いスキルを維持させ、ゲームの状況の正しい理解と判断を促すことで、結果的に高いパフォーマンスを発揮することになる。

「これまで、まずはウエイトトレーニングにより身体作りを重視して、フィジカルの強い選手を作り上げてきました。そのメソッドが正しかったことには今も確信を持っています。われわれは原コーチの指導体制に絶大の信頼を置いていますし、今後もそれが揺らぐことはありません。

そして昨シーズン終盤のフィットネス強化は、間違いなく成功でした。あの時期にやってよかったと思いますし、それは、われわれコーチ陣も全員が実感しています。ですから今後必要なのは、ウエイトトレーニングで作る強いフィジカルと、ハードなコンタクトをしながら動き続けるフィットネスの両輪を回していくことだと考えています。それにより正確なスキルが育ち、正しい状況判断が可能になり、高いパフォーマンスを発揮できる。これこそが、木村監督が常に言っている『技術とフィジカルは表裏一体』という言葉を表していると思います。

特に大事なのが、1年生時の身体作りです。下級生で身体作りがきっちりできていないと、ケガをしてしまう。それが原因で伸び悩むのが一番もったいない。1年目でそこをしっかりやってから、正しいスキルを身につけていけばいいと思います。

昨年の4年生は、サプリメントを本格的に導入して栄養指導を行い、身体を作り始めた年に入学してきた選手でした。ですから身体作りへの意識が高く、昨年のキャプテン藤田貴大(FL)は7~8㎏キロ、石井魁(WTB)は8~10㎏、ほぼ筋肉で体重を増やし、立派な選手に成長してくれました。そして昨年は、大きなケガを繰り返すような選手がいなかった。これまでのフィジカル強化への取り組みが、しっかりと結実した年だったと思います。そして今後も、私達のフィジカル強化の方針がぶれることはありません」

昨年のメンバーのうち、約4割が卒業で抜けた。だが、目標が揺らぐことはまったくない。絶対王者に勝つために、日々、質の高い練習と身体作りをコツコツと積み重ねる。それだけだ。シーゲイルズの高き壁への挑戦は、これからも続いていく。


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