競技パフォーマンスUP
(この記事は2015年4月に公開されました。)
3月下旬の大阪。空は晴れ、公園では桜の花が咲き始めていた。ここに来るのは約20年ぶりである。
「キンチョウスタジアム」が長居球技場であることを知ったのは、長居駅に着いてからだ。実は仕事の関係で3年ほど大阪で暮らしていたことがあり、Xリーグが誕生する前に、関西社会人リーグのクラブチームでプレーしていた。当時、関西社会人一部リーグの試合はだいたい長居球技場で行われており、このスタジアムにはなじみがあったのだ。
長居公園は大阪市の中心部からそこそこ近く、駅からのアクセスもいい。そしてキンチョウスタジアムのフィールドは、自分がプレーしていたころは人工芝だったが、現在は美しい天然芝。
この日にキンチョウスタジアムを訪れた目的は「レガシーボウル」の観戦だ。日本の学生フットボールの王者。関西学院大ファイターズが、アイビーリーグのプリンストン大を迎え撃つゲームである。
実は、密かに関西学院大に期待していた。関西学院大は大学アメリカンフットボール界に君臨する絶対王者。昨年も関西学生リーグを危なげなく全勝優勝し、学生王座決定戦の甲子園ボウルを4連覇している。今年1月3日のライスボウルでは惜敗したものの、社会人王者の富士通フロンティアーズを大いに苦しめた。
両校は14年前にも対戦があり、この時はプリンストン大が27-25で辛勝。総獲得ヤードもプリンストン大の349ヤードに対し、関学は335ヤード。ほぼ、互角の数字だった。関学は近年、リクルーティング網を強化。高校アメリカンフットボールの名門である関西学院高等部からエスカレーター式で選手が入って来るのに加え、近年は大阪や兵庫のみならず、全国の高校から有力選手が集まり、選手層は充実している。
そんな背景から今回は「ひょっとしたら関学が勝つのでは?」と期待を寄せていた。だが懸念もあった。明らかなサイズ差である。
例えばプリンストン大オフェンスライン(OL)5人の平均サイズは、身長192.2㎝、体重128.4㎏。
それに対抗する関学ディフェンスライン(DL)3人の平均サイズは、身長178.3㎝、体重103.7㎏。
関学OLの平均サイズは身長180.6㎝、体重109.6㎏。
プリンストン大DL4人の平均サイズは身長190.5㎝、体重118.5㎏。
関学がライン戦で苦戦するだろうことは、容易に想像できた。
午後1時にキックオフ。正直に書くが、両校のファーストシリーズを見ただけで結果は想像できた。関学OLはプリンストンDLを止められず、クォーターバック(QB)はたびたび、激しいプレッシャーにさらされる。そしてDLは、プリンストン大OLのパワフルで統制の取れたブロックに、幾度となく横倒しにされた。
フィジカルの差はラインだけではない。ダウンフィールドでは、プリンストンのランニングバック(RB)の突進やワイドレシーバー(WR)のラン・アフター・キャッチを関学のラインバッカー(LB)やディフェンシブバック(DB)が捕らえきれず、吹っ飛ばされるシーンが続出した。
思っていた以上に、フィジカルの差は大きかった。いや、圧倒的な差があった。試合を通じて、学生王座に君臨し続ける関西学院の絶対王者たる風格を感じることはなかった。
関学はこの試合、大学日本一となった2014年度のチームを率いた4年生をチームに組み入れていた。昨シーズンの主力QB斎藤圭は途中出場し、6回のパスを投げ4回の成功(1インターセプト)。そして昨シーズンの主将RB鷺野聡は、随所にキレのあるランを見せた。
それに対し、プリンストン大は昨季の4年生を除いた新チームで来日。しかも彼らの練習量は関学と比べて明らかに少なかった。NCAAの規定により、春季練習は全12回というルールが定められているからだ。
つまり春のシーズンの練習量もチームプレーの熟成度合も、関学が大きく優っていたのである(しかもプリンストン大の選手達は、練習やミーティングの合間に、毎日数時間勉強をしていたとか…アイビーリーガー恐るべし)。それなのに関学は圧倒的なフィジカル差の前に、ほぼ何もできずに敗れてしまった。
もちろん3月下旬という時期を考えても、関学がすべてのポテンシャルを発揮できたわけではなかろう。負傷者が続出していたという話もある。しかし、勝負は結果がすべてだ。
自分が特に気になったのが、関学の攻守ラインの体格である。関学は伝統的に大型ラインをそろえるチーム。それなのに、特にDLの平均身長が180㎝を切っていることには違和感を覚えた。1990年代~2000年代にかけて、日本のアメリカンフットボール選手は大型化していたはず。もしかすると、日本の大学のアメフト選手は小型化し始めているのか…? つい、そんな懸念を抱いてしまった。
DNSスタッフの岡先氏によると、昨今、大学ラグビーの選手は大型化しているようにみえるという。フィジカルトレーニングをしっかりとやり込んでいる大学には、下級生でも身長180㎝台後半、体重120~130㎏超の選手がいて、彼らはベンチプレス150㎏程度はガンガン挙げるという。
果たして今、何が起こっているのか…? その真偽は、学生アメリカンフットボールの現場にいない自分には、わからない。
だが、過去幾度となく日本一に輝き、特に近年は圧倒的な強さで大学王座に君臨し続けてきた関西学院大は、NCAA2部相当のチームにフィジカルで圧倒され、30点近くの点差で粉砕された。14年前の対戦と比べ、両校の差は埋まるどころかはっきりと開いた。それは、まぎれもない事実である。
スポーツ大国アメリカを頂点として、グローバル化の進むスポーツ界。今や多くのアスリートが海外のチームに移籍し、世界の檜舞台で活躍を見せるのが当たり前の時代になった。
ひるがえって、アメリカンフットボールはどうだろう。日本のアメリカンフットボールのレベルが上がり、NFLのチームと互角に戦う。今後果たして、そんな時代は来るのだろうか?
サイズ、スピード、筋力…。今回、関学がプリンストンに完敗したことで見えた、本場アメリカとのとんでもなく大きな差。正直現在、日本のアメリカンフットボールはNFLの背中を見ることすらできない。それぐらいのレベル差があることが、はっきりした。
そこにある希望の光。それが先日、NFLのベテランコンバインで素晴らしい評価を得たWRの栗原嵩選手だ。もし栗原選手がNFLで活躍できれば、多くの日本のトップ選手が彼に続き、海を渡ることになるだろう。
≪参照:栗原嵩選手≫
今後も栗原選手に匹敵するスーパーアスリートを輩出するためには、どうするか。
まずは競技人口の確保が必須だ。少子化の進む今後も、多くの中高生がアメリカンフットボール選手を志す。そんな状況を作るには、このスポーツの魅力をできる限り多くの中高生や父兄に知ってもらうべきだ。
アメリカンフットボールとは「男を育てる」スポーツである。
このスポーツは高い規律や知的戦術性も手伝い、人格形成という面で社会に貢献できる。実際にアメリカンフットボールはこれまで、社会で活躍する人材を多く輩出してきた。「彼らのような優れた人間になりたい」。「ウチの息子も素晴らしい社会人に育ってほしい」。そう思わせることは、確実に競技人口の増加につながるだろう。
そして、10代からフィジカルを徹底強化することも欠かせない。
主にサッカーに関するものが多いが「日本人ならではの身体特性を生かそう」という考えを、メディアでよく目にする。だがそれが「=フィジカルトレーニングの軽視」となってはまったく意味がない。
先日Number Webにアップされた、ラグビー協会GM・岩渕健輔氏のコラムの内容が実に興味深かったので、ぜひご一読いただきたいと思う。
http://number.bunshun.jp/articles/-/823074
今年ワールドカップを戦うラグビー日本代表は、世界的名将エディ・ジョーンズ氏の元、「世界一のフィットネス」を作ると宣言。徹底的にフィジカルを磨いた。そしてそこに、繊細なボールのハンドリングやパスワーク、緻密な戦術といった「Japan Way」を上乗せしたことで、世界トップ10に入る代表チームを作り上げた。
確かに「日本人ならではの体の使い方」を追求するのもいい。相撲や古武道に学ぶのも素晴らしいことだ。しかし、それは世界で互角に戦えるフィジカルがあって、初めて生きる。指導者も親も、決してそれを忘れてはならない。
正しいトレーニングをして、正しく栄養を摂れば、必ず身体は大きく、強くなる。プリンストン大と関学の間にあった、とてつもなく大きなフィジカルの差。それを埋めるものは結局、毎日のたゆまぬ努力だ。
そしてアメフトの競技人口増加を支えるもの。それは何より、このスポーツ出身者の社会での頑張りなのである…。
さあ、明日も生きるぞ(笑)。
Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。
(この記事は2015年4月に公開されました。)
3月下旬の大阪。空は晴れ、公園では桜の花が咲き始めていた。ここに来るのは約20年ぶりである。
「キンチョウスタジアム」が長居球技場であることを知ったのは、長居駅に着いてからだ。実は仕事の関係で3年ほど大阪で暮らしていたことがあり、Xリーグが誕生する前に、関西社会人リーグのクラブチームでプレーしていた。当時、関西社会人一部リーグの試合はだいたい長居球技場で行われており、このスタジアムにはなじみがあったのだ。
長居公園は大阪市の中心部からそこそこ近く、駅からのアクセスもいい。そしてキンチョウスタジアムのフィールドは、自分がプレーしていたころは人工芝だったが、現在は美しい天然芝。
この日にキンチョウスタジアムを訪れた目的は「レガシーボウル」の観戦だ。日本の学生フットボールの王者。関西学院大ファイターズが、アイビーリーグのプリンストン大を迎え撃つゲームである。
実は、密かに関西学院大に期待していた。関西学院大は大学アメリカンフットボール界に君臨する絶対王者。昨年も関西学生リーグを危なげなく全勝優勝し、学生王座決定戦の甲子園ボウルを4連覇している。今年1月3日のライスボウルでは惜敗したものの、社会人王者の富士通フロンティアーズを大いに苦しめた。
両校は14年前にも対戦があり、この時はプリンストン大が27-25で辛勝。総獲得ヤードもプリンストン大の349ヤードに対し、関学は335ヤード。ほぼ、互角の数字だった。関学は近年、リクルーティング網を強化。高校アメリカンフットボールの名門である関西学院高等部からエスカレーター式で選手が入って来るのに加え、近年は大阪や兵庫のみならず、全国の高校から有力選手が集まり、選手層は充実している。
そんな背景から今回は「ひょっとしたら関学が勝つのでは?」と期待を寄せていた。だが懸念もあった。明らかなサイズ差である。
例えばプリンストン大オフェンスライン(OL)5人の平均サイズは、身長192.2㎝、体重128.4㎏。
それに対抗する関学ディフェンスライン(DL)3人の平均サイズは、身長178.3㎝、体重103.7㎏。
関学OLの平均サイズは身長180.6㎝、体重109.6㎏。
プリンストン大DL4人の平均サイズは身長190.5㎝、体重118.5㎏。
関学がライン戦で苦戦するだろうことは、容易に想像できた。
午後1時にキックオフ。正直に書くが、両校のファーストシリーズを見ただけで結果は想像できた。関学OLはプリンストンDLを止められず、クォーターバック(QB)はたびたび、激しいプレッシャーにさらされる。そしてDLは、プリンストン大OLのパワフルで統制の取れたブロックに、幾度となく横倒しにされた。
フィジカルの差はラインだけではない。ダウンフィールドでは、プリンストンのランニングバック(RB)の突進やワイドレシーバー(WR)のラン・アフター・キャッチを関学のラインバッカー(LB)やディフェンシブバック(DB)が捕らえきれず、吹っ飛ばされるシーンが続出した。
思っていた以上に、フィジカルの差は大きかった。いや、圧倒的な差があった。試合を通じて、学生王座に君臨し続ける関西学院の絶対王者たる風格を感じることはなかった。
関学はこの試合、大学日本一となった2014年度のチームを率いた4年生をチームに組み入れていた。昨シーズンの主力QB斎藤圭は途中出場し、6回のパスを投げ4回の成功(1インターセプト)。そして昨シーズンの主将RB鷺野聡は、随所にキレのあるランを見せた。
それに対し、プリンストン大は昨季の4年生を除いた新チームで来日。しかも彼らの練習量は関学と比べて明らかに少なかった。NCAAの規定により、春季練習は全12回というルールが定められているからだ。
つまり春のシーズンの練習量もチームプレーの熟成度合も、関学が大きく優っていたのである(しかもプリンストン大の選手達は、練習やミーティングの合間に、毎日数時間勉強をしていたとか…アイビーリーガー恐るべし)。それなのに関学は圧倒的なフィジカル差の前に、ほぼ何もできずに敗れてしまった。
もちろん3月下旬という時期を考えても、関学がすべてのポテンシャルを発揮できたわけではなかろう。負傷者が続出していたという話もある。しかし、勝負は結果がすべてだ。
自分が特に気になったのが、関学の攻守ラインの体格である。関学は伝統的に大型ラインをそろえるチーム。それなのに、特にDLの平均身長が180㎝を切っていることには違和感を覚えた。1990年代~2000年代にかけて、日本のアメリカンフットボール選手は大型化していたはず。もしかすると、日本の大学のアメフト選手は小型化し始めているのか…? つい、そんな懸念を抱いてしまった。
DNSスタッフの岡先氏によると、昨今、大学ラグビーの選手は大型化しているようにみえるという。フィジカルトレーニングをしっかりとやり込んでいる大学には、下級生でも身長180㎝台後半、体重120~130㎏超の選手がいて、彼らはベンチプレス150㎏程度はガンガン挙げるという。
果たして今、何が起こっているのか…? その真偽は、学生アメリカンフットボールの現場にいない自分には、わからない。
だが、過去幾度となく日本一に輝き、特に近年は圧倒的な強さで大学王座に君臨し続けてきた関西学院大は、NCAA2部相当のチームにフィジカルで圧倒され、30点近くの点差で粉砕された。14年前の対戦と比べ、両校の差は埋まるどころかはっきりと開いた。それは、まぎれもない事実である。
スポーツ大国アメリカを頂点として、グローバル化の進むスポーツ界。今や多くのアスリートが海外のチームに移籍し、世界の檜舞台で活躍を見せるのが当たり前の時代になった。
ひるがえって、アメリカンフットボールはどうだろう。日本のアメリカンフットボールのレベルが上がり、NFLのチームと互角に戦う。今後果たして、そんな時代は来るのだろうか?
サイズ、スピード、筋力…。今回、関学がプリンストンに完敗したことで見えた、本場アメリカとのとんでもなく大きな差。正直現在、日本のアメリカンフットボールはNFLの背中を見ることすらできない。それぐらいのレベル差があることが、はっきりした。
そこにある希望の光。それが先日、NFLのベテランコンバインで素晴らしい評価を得たWRの栗原嵩選手だ。もし栗原選手がNFLで活躍できれば、多くの日本のトップ選手が彼に続き、海を渡ることになるだろう。
≪参照:栗原嵩選手≫
今後も栗原選手に匹敵するスーパーアスリートを輩出するためには、どうするか。
まずは競技人口の確保が必須だ。少子化の進む今後も、多くの中高生がアメリカンフットボール選手を志す。そんな状況を作るには、このスポーツの魅力をできる限り多くの中高生や父兄に知ってもらうべきだ。
アメリカンフットボールとは「男を育てる」スポーツである。
このスポーツは高い規律や知的戦術性も手伝い、人格形成という面で社会に貢献できる。実際にアメリカンフットボールはこれまで、社会で活躍する人材を多く輩出してきた。「彼らのような優れた人間になりたい」。「ウチの息子も素晴らしい社会人に育ってほしい」。そう思わせることは、確実に競技人口の増加につながるだろう。
そして、10代からフィジカルを徹底強化することも欠かせない。
主にサッカーに関するものが多いが「日本人ならではの身体特性を生かそう」という考えを、メディアでよく目にする。だがそれが「=フィジカルトレーニングの軽視」となってはまったく意味がない。
先日Number Webにアップされた、ラグビー協会GM・岩渕健輔氏のコラムの内容が実に興味深かったので、ぜひご一読いただきたいと思う。
http://number.bunshun.jp/articles/-/823074
今年ワールドカップを戦うラグビー日本代表は、世界的名将エディ・ジョーンズ氏の元、「世界一のフィットネス」を作ると宣言。徹底的にフィジカルを磨いた。そしてそこに、繊細なボールのハンドリングやパスワーク、緻密な戦術といった「Japan Way」を上乗せしたことで、世界トップ10に入る代表チームを作り上げた。
確かに「日本人ならではの体の使い方」を追求するのもいい。相撲や古武道に学ぶのも素晴らしいことだ。しかし、それは世界で互角に戦えるフィジカルがあって、初めて生きる。指導者も親も、決してそれを忘れてはならない。
正しいトレーニングをして、正しく栄養を摂れば、必ず身体は大きく、強くなる。プリンストン大と関学の間にあった、とてつもなく大きなフィジカルの差。それを埋めるものは結局、毎日のたゆまぬ努力だ。
そしてアメフトの競技人口増加を支えるもの。それは何より、このスポーツ出身者の社会での頑張りなのである…。
さあ、明日も生きるぞ(笑)。