競技パフォーマンスUP

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(後編)

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(後編)

DESIRE TO EVOLUTION

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フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(後編)

フィジカル・モンスターとなりて、絶対王者に挑め。 東海大学シーゲイルズはなぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか(後編)

圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえ、「打倒・帝京」の一番手として今年注目される、東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将(FL)のもと、躍進が期待される2015年。大学選手権6連覇中の絶対王者を倒し、日本一の座を虎視眈々と狙う彼らは、なぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか。後編では、引き続いて木村季由GM兼監督にお話をうかがいながら、彼らの強さの秘密、そして打倒・帝京に向けた取り組みについて探っていく。(※本記事は2015年時点で作成したものです。)


■身体作りは、やれば確実に成果が出る。

ウエイトトレーニングを徹底的に行い、フィジカルを強くする意識を浸透させる。それをロジックで理解し、口で言うのはたやすい。だが多くの部員達一人一人にその意識を浸透させてチームの力を引き上げ、それを長年にわたって維持しつつ、バージョンアップしていくことは決して容易なことではない。

ここまで選手のフィジカルへの意識を高め、チームの躍進を支えてきた木村季由GM兼監督は日体大出身。自身はBKを中心にスピーディに展開するラグビーに慣れ親しんできた。

「当時の日体大のラグビーは、ボールも人も速く動くスタイル。現役のころ、ウエイトトレーニングはそれほど重要視していませんでした。あくまで、好きな人間がやるものという感じでしたね。パワーを軽視してはいませんでしたが、少なくとも、定期的にきっちりとウエイトトレーニングをやるような発想はありませんでした。

1998年度の監督就任当初は、展開スタイルも考えました。でも学生の資質や能力を考え、確実に計算できるものから一つ一つ積み重ねていこうと決めました。当時私は、日本代表や23歳以下代表のフィットネスコーチを務めていたので、体力的アプローチについてはいろいろな情報を自分なりに持っていました。ですから、フィジカルはやればやるほど上がることはわかっていた。技術を伸ばすのはどうしても時間がかかるし、成果は簡単には見えてこない。その点、身体作りは、やれば確実に成果が出る。最も手のつけやすいポイントなんです。ですから、まずは一番得意な部分から学生の心にギュッと入り込んでいこう、と決めました。

また当時は、東海大の有賀誠司先生が、大学のスポーツサポートシステムを立ち上げた時期。グラウンド内外やウエイトトレーニング場など、さまざまな所で大学側と部が連携するシステムの構築が検討されていた時代です。私達もそこに入り込むことで、環境が徐々に整っていきました。私達が使っているトレーニングルームは、当時から東洋一という触れ込みで学校案内にも載っていた立派な施設。それを利用しない手はありませんから。

でも、選手達の意識がまだまだ低かった。当時はウエイト場に行っても、ただ器具を触って帰ってくるような状態。ウエイトトレーニングの日=休み、という感覚でした。ラグビー部の選手はウエイトトレーニングルームに行くと、しゃべってばかりで器具の扱いは雑。柔道やアメリカンフットボールの選手が一所懸命トレーニングをする横で、小さくなってやっていました。当時は選手個々の測定データが貼り出されていたのですが、ラグビー部のものは恥ずかしくて見られない。そんなレベルです。

当時はグラウンドで週に6日練習し、終わった後にウエイトトレーニングを行っていましたが、それではなかなか身が入らない。そこで週2日、朝練とウエイトトレーニングだけ、という日を作りました。でも、時間枠を取ったところできちんとやらなければ意味がない。有賀先生から情報をいただいてメニュー作りに取り組んでいましたが、本当に試行錯誤ばかりで…。

最初は『とにかくエンジンをでかくしろ。軽自動車でダンプカーとぶつかったら、どっちが勝つの?』ということから説いていき、理解させました。でも、プレーの中でウエイトトレーニングの必要性を痛感しないと、しっかりやらなきゃダメだ、と思わない。要はヤラれないと、本気になれないんです。そこを正すには、本当に時間がかかりました」

そこから躍進した理由の一つが、原将浩ストレングスコーチの就任だった。もともとハイレベルのパワーリフターだった原コーチは、トレーニングを自ら実践することで選手達の手本となった。


原将浩 ストレングスコーチ

「彼が手伝ってくれたことで、徐々によくなっていきました。トレーニング理論なんて十人十色。10人に聞けば10の考え方がある。そこで私が彼に頼んだのは、いたずらに新しい理論にぶれるのではなく、基本をしっかり押さえること。そして限界を決めず、常にチャレンジする雰囲気を作ってほしい、ということでした。

その結果、コーチ自身が限界はないことのいいお手本を見せてくれた。理論派というより実戦派のコーチだったので、そこは本当に上手くいった。今も原さんには絶対の信頼を置いていますし、これまでのパワーアップへの取り組みは、彼抜きでは語れません」


■関東学院に打ちのめされることで、意識を変えた。

また当時、関東大学リーグ戦グループで圧倒的な強さを誇っていた関東学院大と練習試合を組むことで、選手の意識を徐々に変えていった。

「どんなことでも、いいものは何でも取り入れたいと思った。そこで関東さんに行き、何度も練習試合をさせていただきましたが、もうコテンパンにやられて…。完全に大人と子供。ぶつかり合いじゃまるで話にならなかった。もう、打ちのめされて打ちのめされて…。

でも関東さんも、決して能力が高い子ばかりがいたわけではなかった。彼らは練習が終わってから、夜の22時ごろまで、一所懸命ウエイトトレーニングをしていました。やっぱり、やっているんですよ。それを知り、やっぱり根本的な意識を変えなきゃダメだと思いました。テクニックだけじゃダメで、体重がないと勝てない。そこで、筋力を上げて体重を増やすことを徹底的にやろう、と決めた。そうやって、徐々に変わっていったのです。

ウエイトトレーニングの成果がプレーに直結して表れたのは、今、トップリーグで活躍しているリーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス/FL)や前川鐘平(神戸製鋼コベルコスティーラーズ/FL)らが入ってきたころでしょうか。やっと当時、他のチームからは『東海大には、ボールの争奪戦ではかなわない』と言われるようになりました。それぐらいフィジカルにこだわった結果、2009年に大学選手権の決勝までたどり着くことができたのです」


■ごくわずかの差が積み重なれば、ものすごく大きな点差になる。

2009年の大学選手権準優勝後も’10年、’12年、’14年と大学選手権ベスト4と、近年は安定した成績を残す東海大学シーゲイルズ。経験豊富なメンバーが多く残る今年の目標はもちろん、悲願の大学日本一。しかしその道のりには、昨年のリーグ戦を制した流経大、そして絶対王者として君臨する帝京大が立ちはだかってくる。特に帝京大には、この5月行った試合で19-59と完敗を喫した。しかし、木村監督の言葉に焦りはまったくない。

「春の最初の帝京戦の結果を、学生は冷静に受け止めていると思います。幸い、課題ははっきりしている。何がダメだったか、という点で、コーチ陣と学生の考えが一致している。そこは安心できる要素です。


※ウエイトトレーニング後、練習のポイントを伝えるキャプテン 藤田選手

帝京大学は大きな目標です。彼らは奇をてらうようなことは何一つせず、正しいことをして、正しい結果を出している。それだけのこと。でも、そこがなかなか届かないのは、ウチが正しくないことをしているから。一つ一つのプレーで少し手を抜いたり、ある肝心な時に諦めてしまったり、日ごろのどこかで自分と向き合っていなかったり…という、ちょっとした取り組みの差がある。

例えば、帝京の選手は相手を掴んだら逃がさない。そして動き出しがよく、我慢ができて、笛から笛まで決して休まない。彼らは常に必死にやっているので、息が上がっている。勝っているのに、みんな苦しそうにやっているんです。手を抜かず、出し切っているからですよね。『ここで5歩ドライブしろ!』と声をかければ、彼らはそれをする。
でも、うちは相手を倒し切らずに逃がしてしまったり、『効率よく動こう』とか『ここは走るけど、ここは抜いておこう』と考えて、休んでしまう。5歩ドライブすべき時に3歩でやめてしまう。厳しい局面で我慢ができず、反則をしてしまう。その積み重ねの差です。一つ一つは本当に、ごくわずかの差。でも、それが積み重なれば、ものすごく大きな差になる。
帝京もウチと同じで、やっているラグビーはシンプル。身体をしっかりと鍛えて、強いFWが試合を支配して、BKがどんどん動き回る。同じ考えでチームを作り、かつ、どんどん進化している。

必要なものはおそらく、われわれもほぼ同じ。その中で、意識とクオリティの一つ一つに微妙な差がある。この前の帝京戦でつかめたものは、まさにそういったディテールの差でした。帝京には能力が高い選手がいる、なんてことは理由でも何でもありません。それが理由なら、もうやめればいい。そうじゃない。帝京はいわば『綻ばない』チーム。全員が頭の中で、同じ”絵”を見ている。『目標に向けて、こうすればいい』という、スタッフと部員の意思統一が、しっかり取れている。その点、われわれにはまだバラバラな部分があるのでしょう。

日本一のチームと戦うと、学ぶことがすごくたくさんある。失敗させられることで、いろいろなものが見えてくるんです。なぜなら、本当に強いから。以前は帝京さんに行って負けて帰る時、しょぼくれていたんです。でも今は『見つけたぞ!つかんだぞ!』という感触。大学ラグビーの最高峰のチームが、自分達の足りない部分、言いかえれば甘さを炙り出してくれる。
だから、もっともっと本気でやらないといけないということ。帝京さんは僕らよりずっと先を走っている。そこをどう詰めて、追い抜くか。決して簡単なことではないし、特効薬もない。着実に着実に、できることをしっかりと積み重ねていくしかない。そこは私も学生も、よくわかっていると思います」

帝京とは7月末に、再び対戦する。

「毎週でもやりたいぐらいです。この5月に学んだことを、7月までにどれだけ改善できるか。本当に楽しみです。最終的にはお正月がターゲットですが、今はそこに向けてやれることを、あえて遠回りでもやっています。今はとにかく負荷をかけ続ける。楽な道ときつい道があったら、きつい道を選べと言っています。
例えばキックで逃げるなら、逃げずに継続し続けろと。例えそれがムチャであっても、今はやれと。要は覚悟の問題。ボールを絶対に保持し続けるぞ、蹴られたボールは蹴り返さないぞ、攻めるぞ、という覚悟がチームにあれば、みんな必死で戻ってくる。無謀であっても、あえてやる。あれもできるこれもできる、じゃなく、これしかないんだ、と腹をくくる。その腹のくくり方が、強くなる秘訣だと思います。
信じられるもの、立ち戻れる場所。何かあった時に『ここだぞ!』というものを作る。それがウエイトトレーニングでもいいんです。俺達は身体が強いんだ、上手くいかなくなっても、ぶつかり合いで勝とう!それでいいと思うんです。そういうものを持ってさえいれば。どんな相手にも立ち向かえる。絶対的な自分達の強み。それを身につけることですよね。
幸い、例年と比べて今年のチームは積み重ねてきたものがある。去年の積み重ねがしっかり残っていて、手ごたえはあります。うちが帝京さんの1強時代を崩して、大学ラグビーをもっと面白いものにする。そのためには、これからの本気の取り組みがすべてです」

7月の帝京戦を一つの通過点として、夏合宿そしてリーグ戦、大学選手権を見すえながら、打倒・帝京そして日本一を狙う東海大学シーゲイルズ。Desire To Evolutionでは引き続きシーズン終了まで、彼らの挑戦を追いかけていく予定だ。

(前編を読む)

 




Text:
前田成彦
DESIRE TO EVOLUTION編集長(株式会社ドーム コンテンツ企画部所属)。学生~社会人にてアメリカンフットボールを経験。趣味であるブラジリアン柔術の競技力向上、そして学生時代のベンチプレスMAX超えを目標に奮闘するも、誘惑に負け続ける日々を送る。お気に入りのマッスルメイトはホエイSP。

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圧倒的パワーと強靭なフィットネス、そこに豊富な経験を上乗せした大型選手をそろえ、「打倒・帝京」の一番手として今年注目される、東海大ラグビー部シーゲイルズ。卓越したリーダーシップを発揮する藤田貴大主将(FL)のもと、躍進が期待される2015年。大学選手権6連覇中の絶対王者を倒し、日本一の座を虎視眈々と狙う彼らは、なぜ「デカい」のか。なぜ「強い」のか。後編では、引き続いて木村季由GM兼監督にお話をうかがいながら、彼らの強さの秘密、そして打倒・帝京に向けた取り組みについて探っていく。(※本記事は2015年時点で作成したものです。)


■身体作りは、やれば確実に成果が出る。

ウエイトトレーニングを徹底的に行い、フィジカルを強くする意識を浸透させる。それをロジックで理解し、口で言うのはたやすい。だが多くの部員達一人一人にその意識を浸透させてチームの力を引き上げ、それを長年にわたって維持しつつ、バージョンアップしていくことは決して容易なことではない。

ここまで選手のフィジカルへの意識を高め、チームの躍進を支えてきた木村季由GM兼監督は日体大出身。自身はBKを中心にスピーディに展開するラグビーに慣れ親しんできた。

「当時の日体大のラグビーは、ボールも人も速く動くスタイル。現役のころ、ウエイトトレーニングはそれほど重要視していませんでした。あくまで、好きな人間がやるものという感じでしたね。パワーを軽視してはいませんでしたが、少なくとも、定期的にきっちりとウエイトトレーニングをやるような発想はありませんでした。

1998年度の監督就任当初は、展開スタイルも考えました。でも学生の資質や能力を考え、確実に計算できるものから一つ一つ積み重ねていこうと決めました。当時私は、日本代表や23歳以下代表のフィットネスコーチを務めていたので、体力的アプローチについてはいろいろな情報を自分なりに持っていました。ですから、フィジカルはやればやるほど上がることはわかっていた。技術を伸ばすのはどうしても時間がかかるし、成果は簡単には見えてこない。その点、身体作りは、やれば確実に成果が出る。最も手のつけやすいポイントなんです。ですから、まずは一番得意な部分から学生の心にギュッと入り込んでいこう、と決めました。

また当時は、東海大の有賀誠司先生が、大学のスポーツサポートシステムを立ち上げた時期。グラウンド内外やウエイトトレーニング場など、さまざまな所で大学側と部が連携するシステムの構築が検討されていた時代です。私達もそこに入り込むことで、環境が徐々に整っていきました。私達が使っているトレーニングルームは、当時から東洋一という触れ込みで学校案内にも載っていた立派な施設。それを利用しない手はありませんから。

でも、選手達の意識がまだまだ低かった。当時はウエイト場に行っても、ただ器具を触って帰ってくるような状態。ウエイトトレーニングの日=休み、という感覚でした。ラグビー部の選手はウエイトトレーニングルームに行くと、しゃべってばかりで器具の扱いは雑。柔道やアメリカンフットボールの選手が一所懸命トレーニングをする横で、小さくなってやっていました。当時は選手個々の測定データが貼り出されていたのですが、ラグビー部のものは恥ずかしくて見られない。そんなレベルです。

当時はグラウンドで週に6日練習し、終わった後にウエイトトレーニングを行っていましたが、それではなかなか身が入らない。そこで週2日、朝練とウエイトトレーニングだけ、という日を作りました。でも、時間枠を取ったところできちんとやらなければ意味がない。有賀先生から情報をいただいてメニュー作りに取り組んでいましたが、本当に試行錯誤ばかりで…。

最初は『とにかくエンジンをでかくしろ。軽自動車でダンプカーとぶつかったら、どっちが勝つの?』ということから説いていき、理解させました。でも、プレーの中でウエイトトレーニングの必要性を痛感しないと、しっかりやらなきゃダメだ、と思わない。要はヤラれないと、本気になれないんです。そこを正すには、本当に時間がかかりました」

そこから躍進した理由の一つが、原将浩ストレングスコーチの就任だった。もともとハイレベルのパワーリフターだった原コーチは、トレーニングを自ら実践することで選手達の手本となった。


原将浩 ストレングスコーチ

「彼が手伝ってくれたことで、徐々によくなっていきました。トレーニング理論なんて十人十色。10人に聞けば10の考え方がある。そこで私が彼に頼んだのは、いたずらに新しい理論にぶれるのではなく、基本をしっかり押さえること。そして限界を決めず、常にチャレンジする雰囲気を作ってほしい、ということでした。

その結果、コーチ自身が限界はないことのいいお手本を見せてくれた。理論派というより実戦派のコーチだったので、そこは本当に上手くいった。今も原さんには絶対の信頼を置いていますし、これまでのパワーアップへの取り組みは、彼抜きでは語れません」


■関東学院に打ちのめされることで、意識を変えた。

また当時、関東大学リーグ戦グループで圧倒的な強さを誇っていた関東学院大と練習試合を組むことで、選手の意識を徐々に変えていった。

「どんなことでも、いいものは何でも取り入れたいと思った。そこで関東さんに行き、何度も練習試合をさせていただきましたが、もうコテンパンにやられて…。完全に大人と子供。ぶつかり合いじゃまるで話にならなかった。もう、打ちのめされて打ちのめされて…。

でも関東さんも、決して能力が高い子ばかりがいたわけではなかった。彼らは練習が終わってから、夜の22時ごろまで、一所懸命ウエイトトレーニングをしていました。やっぱり、やっているんですよ。それを知り、やっぱり根本的な意識を変えなきゃダメだと思いました。テクニックだけじゃダメで、体重がないと勝てない。そこで、筋力を上げて体重を増やすことを徹底的にやろう、と決めた。そうやって、徐々に変わっていったのです。

ウエイトトレーニングの成果がプレーに直結して表れたのは、今、トップリーグで活躍しているリーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス/FL)や前川鐘平(神戸製鋼コベルコスティーラーズ/FL)らが入ってきたころでしょうか。やっと当時、他のチームからは『東海大には、ボールの争奪戦ではかなわない』と言われるようになりました。それぐらいフィジカルにこだわった結果、2009年に大学選手権の決勝までたどり着くことができたのです」


■ごくわずかの差が積み重なれば、ものすごく大きな点差になる。

2009年の大学選手権準優勝後も’10年、’12年、’14年と大学選手権ベスト4と、近年は安定した成績を残す東海大学シーゲイルズ。経験豊富なメンバーが多く残る今年の目標はもちろん、悲願の大学日本一。しかしその道のりには、昨年のリーグ戦を制した流経大、そして絶対王者として君臨する帝京大が立ちはだかってくる。特に帝京大には、この5月行った試合で19-59と完敗を喫した。しかし、木村監督の言葉に焦りはまったくない。

「春の最初の帝京戦の結果を、学生は冷静に受け止めていると思います。幸い、課題ははっきりしている。何がダメだったか、という点で、コーチ陣と学生の考えが一致している。そこは安心できる要素です。


※ウエイトトレーニング後、練習のポイントを伝えるキャプテン 藤田選手

帝京大学は大きな目標です。彼らは奇をてらうようなことは何一つせず、正しいことをして、正しい結果を出している。それだけのこと。でも、そこがなかなか届かないのは、ウチが正しくないことをしているから。一つ一つのプレーで少し手を抜いたり、ある肝心な時に諦めてしまったり、日ごろのどこかで自分と向き合っていなかったり…という、ちょっとした取り組みの差がある。

例えば、帝京の選手は相手を掴んだら逃がさない。そして動き出しがよく、我慢ができて、笛から笛まで決して休まない。彼らは常に必死にやっているので、息が上がっている。勝っているのに、みんな苦しそうにやっているんです。手を抜かず、出し切っているからですよね。『ここで5歩ドライブしろ!』と声をかければ、彼らはそれをする。
でも、うちは相手を倒し切らずに逃がしてしまったり、『効率よく動こう』とか『ここは走るけど、ここは抜いておこう』と考えて、休んでしまう。5歩ドライブすべき時に3歩でやめてしまう。厳しい局面で我慢ができず、反則をしてしまう。その積み重ねの差です。一つ一つは本当に、ごくわずかの差。でも、それが積み重なれば、ものすごく大きな差になる。
帝京もウチと同じで、やっているラグビーはシンプル。身体をしっかりと鍛えて、強いFWが試合を支配して、BKがどんどん動き回る。同じ考えでチームを作り、かつ、どんどん進化している。

必要なものはおそらく、われわれもほぼ同じ。その中で、意識とクオリティの一つ一つに微妙な差がある。この前の帝京戦でつかめたものは、まさにそういったディテールの差でした。帝京には能力が高い選手がいる、なんてことは理由でも何でもありません。それが理由なら、もうやめればいい。そうじゃない。帝京はいわば『綻ばない』チーム。全員が頭の中で、同じ”絵”を見ている。『目標に向けて、こうすればいい』という、スタッフと部員の意思統一が、しっかり取れている。その点、われわれにはまだバラバラな部分があるのでしょう。

日本一のチームと戦うと、学ぶことがすごくたくさんある。失敗させられることで、いろいろなものが見えてくるんです。なぜなら、本当に強いから。以前は帝京さんに行って負けて帰る時、しょぼくれていたんです。でも今は『見つけたぞ!つかんだぞ!』という感触。大学ラグビーの最高峰のチームが、自分達の足りない部分、言いかえれば甘さを炙り出してくれる。
だから、もっともっと本気でやらないといけないということ。帝京さんは僕らよりずっと先を走っている。そこをどう詰めて、追い抜くか。決して簡単なことではないし、特効薬もない。着実に着実に、できることをしっかりと積み重ねていくしかない。そこは私も学生も、よくわかっていると思います」

帝京とは7月末に、再び対戦する。

「毎週でもやりたいぐらいです。この5月に学んだことを、7月までにどれだけ改善できるか。本当に楽しみです。最終的にはお正月がターゲットですが、今はそこに向けてやれることを、あえて遠回りでもやっています。今はとにかく負荷をかけ続ける。楽な道ときつい道があったら、きつい道を選べと言っています。
例えばキックで逃げるなら、逃げずに継続し続けろと。例えそれがムチャであっても、今はやれと。要は覚悟の問題。ボールを絶対に保持し続けるぞ、蹴られたボールは蹴り返さないぞ、攻めるぞ、という覚悟がチームにあれば、みんな必死で戻ってくる。無謀であっても、あえてやる。あれもできるこれもできる、じゃなく、これしかないんだ、と腹をくくる。その腹のくくり方が、強くなる秘訣だと思います。
信じられるもの、立ち戻れる場所。何かあった時に『ここだぞ!』というものを作る。それがウエイトトレーニングでもいいんです。俺達は身体が強いんだ、上手くいかなくなっても、ぶつかり合いで勝とう!それでいいと思うんです。そういうものを持ってさえいれば。どんな相手にも立ち向かえる。絶対的な自分達の強み。それを身につけることですよね。
幸い、例年と比べて今年のチームは積み重ねてきたものがある。去年の積み重ねがしっかり残っていて、手ごたえはあります。うちが帝京さんの1強時代を崩して、大学ラグビーをもっと面白いものにする。そのためには、これからの本気の取り組みがすべてです」

7月の帝京戦を一つの通過点として、夏合宿そしてリーグ戦、大学選手権を見すえながら、打倒・帝京そして日本一を狙う東海大学シーゲイルズ。Desire To Evolutionでは引き続きシーズン終了まで、彼らの挑戦を追いかけていく予定だ。

(前編を読む)