競技パフォーマンスUP
先日、サッカーの日本代表登録メンバー23人が発表された。メンバー表を見ると、今の選手達は残念ながら「プロアスリートとして貧弱である」と言わざるを得ない。その理由はどこにあるのか。そしてこれからの日本のサッカーは、果たしてどうあるべきなのか。世界的な盛り上がりを見せる今だからこそ、あえて問題提起したい。
まず、気になるのが選手達の体重である。驚くべきは体格の貧弱さ。GKを除くすべてのポジションに、80kg以上の選手はいない。ヨーロッパ、南米の屈強な選手達に身体をじかにぶつけ、ボールを奪うMF、DFの選手達ですら、体重は70kgそこそこ。これで、本当に世界の強豪と渡り合えるのだろうか?
こちらのトレーニングメニューを見てほしい。
スクワット(150kg) | 6回×4セット |
ベンチプレス(100kg) | 6回×4セット |
クリーン(75kg) | 6回×4セット |
レッグプレス(200kg) | 6回×4セット |
デッドリフト(200kg) | 6回×4セット |
ショルダープレス(70kg) | 6回×4セット |
アームカール(30kg) | 6回×4セット |
トライセップスエクステンション(30kg) | 6回×4セット |
ラットプルダウン(75kg) | 6回×4セット |
ベンチディップ(75kg) | 6回×4セット |
ブリッジ(75kg) | 6回×4セット |
(「CR7 cristiano-ronaldo」より)
これは、ボディビルダーのトレーニングメニューではない。レアル・マドリードのFWであり、ポルトガル代表のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド。彼がマンチェスター・ユナイテッド時代、個人的に取り組んでいたトレーニングメニューの一例である。
スポルティング・リスボンからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した2003年当時、やや華奢なスピードあふれるドリブラーだった彼の体格は183㎝74kg。それに対し、2013年の体格は184㎝84kg。この10年で熱心にウェイトトレーニングに取り組み、体重を10kgアップさせた。10年前と今では、もはや別人である。そして以前から持っていたスピードに圧倒的なパワーを上乗せし、スーパースターの座へと上り詰めた。
また、スウェーデン代表のFWズラタン・イブラヒモビッチ。彼も2004年、イタリアの名門クラブ・ユヴェントスに移籍すると、熱心にウェイトトレーニングに取り組んで体重を10kgアップさせた。彼もまた、世界的なストライカー。現在の活躍は言わずもがなである。
ウェイトトレーニングは、ヨーロッパの一時的な流行に過ぎないのではないか? そんな疑問を持つ方もいるだろう。だが、それは違う。
例えばブラジル。国内の多くのクラブには以前から、専門のフィジカルトレーナーが常駐。選手達は育成年代に合わせて処方されたウェイトトレーニングのメニューに、熱心に取り組む。ブラジル代表というと、ストリートサッカーを原点としたテクニックばかりが注目されるが、実際はフィジカルも重視されているのだ。またブラジル代表のエース、ネイマールも、国内クラブからバルセロナへ移籍するにあたり、激しいぶつかり合いに耐えうる身体を作るため、数kg体重をアップさせたという。
もちろん、サッカーはラグビーやアメリカンフットボールとは異なり、ぶつかって押し合うための絶対的な質量が必要な競技ではない。ここでは、サッカー選手はラグビーやアメフト選手のような身体になるべきだ、と主張しているわけでは決してない。また、ボディコンタクトで相手に負けないためには、体重やパワーがすべてではないのも確か。バランス感覚そしてボールの置き方、身体の使い方も重要になってくる。
そのセオリーありきで、2006年当時の代表監督・ジーコが退任に際して語った言葉に、耳を傾けてほしい。
「世界との体格差を強く感じた。上背の問題は仕方ない面もあるが、90分耐えうるベースの問題、例えば上半身・下半身の強さなどをどんどん鍛えていけば、自分たちの持っている力を発揮できると思う。この体格差の問題は、個々の選手の責任ではない。彼らは、もっと若いうちに技術だけでなくフィジカルの面でも鍛えるという環境になかった。ただ彼らが資質を持ちながら、もっとコンスタントに力を発揮するためには体格も必要な要素だったと思う。日本代表としての活動時間は短いので、これは日本サッカー協会と各クラブなどが連係して世界の最先端の国々と協力していくべきだ」
(※2006年6月26日の退任会見より要約)
では聞きたい。ジーコの退任から8年。果たして日本のサッカー選手のフィジカルは、どれほど向上したのだろう?
欧州で活躍するトップ選手達が熱心にウェイトトレーニングに取り組み、圧倒的なフィジカルを手にしている。その傍らで、日本のサッカー選手達が筋力アップへの取り組みをほとんどしていないのは間違いない。そして自らのフィジカル不足を「日本人ならではの身体特性」と考え、開き直っているようにも見える。「日本と世界にはフィジカルの差がある」という思い込みは、もはや戦術面の前提条件とすらなっている。
それどころか、一部のトップ選手やサッカー解説者が「ウェイトトレーニングをすると体が重くなる」「サッカー選手にウェイトトレーニングは不要」などと、明らかに間違った思い込みを流布させる始末。これについては以前の特集でも解説しているが、筋肥大による体重アップは段階的に、時間をかけて行う必要がある。また体重アップでプレーに支障が出る場合、筋量を増やす時期と筋力を上げる時期の目標設定に過ちがあった、もしくはトレーナーとのコミュニケーションに何らかの問題があった、などの要因も考えられる。ウェイトトレーニングを行う際には、それが筋量を増やすためなのか、出力を上げるためなのかを、選手本人とトレーナーがしっかり情報共有する必要があるのだ。
いずれにせよ、今の日本のサッカー選手は、筋力トレーニングに対する意識は低い。そう言わざるを得ない。現在はインテル・ミラノで活躍する長友佑都選手の影響で、コアスタビリティトレーニングに熱心に取り組むサッカー選手は増えた。しかし、それだけで身体が完成するわけがない。ベーシックな、筋量を増やすためのトレーニングに、若年層からもっと取り組むべきである。
では、どこの筋肉を重点的に鍛えるべきなのか。
1試合あたり10~12kmと、走行距離の多いサッカーにおいて大事なのが、常に姿勢を維持し、広いビジョンを持ちながら走り続けることだ。フィジカルの足りない選手は試合終盤になるといい姿勢を維持できず、ミスにつながる可能性がある。そして、走りながらいい姿勢を維持するには、特に背中とお尻まわりの筋肉をしっかりと付ける必要がある。
これらの筋力トレーニングをしっかり行うのは、成長が安定し、テストステロンの分泌が活発になる高校生(16~18歳)から。この時期は、筋肉の出力を上げることよりも、筋量を増やすことを重視すべき。筋力トレーニングをどんどん行い、プロテインなどサプリメントも積極的に摂り、体を大きく、強くすることが大事である。しかし日本のサッカー選手の多くは、16~18歳の時期に筋力トレーニングを怠っており、プロや大学生になっても基本的なプッシュアップや斜め懸垂が満足にできないこともあると聞く。確かに高校やユースチームはほぼ1年中試合をこなすもの。しかしそんなスケジュールの中でも、コーチは選手の将来を見据え、筋肥大のトレーニングと栄養摂取を積極的に取り入れていただきたい、と切に願う。
現在、ドームアスリートハウスでは、数人のサッカー選手がフィジカルトレーニングに励んでいる。彼らは外国人とのパワー差を痛感。身体を大きくするため、あらためてフィジカルトレーニングに取り組んでいる最中だ。彼らはきっと、今後のリーグそして日本代表を変革していくに違いない。
6月15日から始まる、日本代表の大勝負。結果は神のみぞ知ることだが、われわれも当然、勝利を強く願っている。しかしどのような結果であろうと、サッカー日本代表が今後、世界のベスト4入り、そして優勝を成し遂げるためには、さらなるフィジカルアップが絶対に必要となる。
日本人がこれまで培った、優れたテクニックとパスワーク。そこに屈強なフィジカルを上乗せし、世界の強豪国を技術でもパワーでもねじ伏せる。そんな日本代表を、いつか見てみたい。
先日、サッカーの日本代表登録メンバー23人が発表された。メンバー表を見ると、今の選手達は残念ながら「プロアスリートとして貧弱である」と言わざるを得ない。その理由はどこにあるのか。そしてこれからの日本のサッカーは、果たしてどうあるべきなのか。世界的な盛り上がりを見せる今だからこそ、あえて問題提起したい。
まず、気になるのが選手達の体重である。驚くべきは体格の貧弱さ。GKを除くすべてのポジションに、80kg以上の選手はいない。ヨーロッパ、南米の屈強な選手達に身体をじかにぶつけ、ボールを奪うMF、DFの選手達ですら、体重は70kgそこそこ。これで、本当に世界の強豪と渡り合えるのだろうか?
こちらのトレーニングメニューを見てほしい。
スクワット(150kg) | 6回×4セット |
ベンチプレス(100kg) | 6回×4セット |
クリーン(75kg) | 6回×4セット |
レッグプレス(200kg) | 6回×4セット |
デッドリフト(200kg) | 6回×4セット |
ショルダープレス(70kg) | 6回×4セット |
アームカール(30kg) | 6回×4セット |
トライセップスエクステンション(30kg) | 6回×4セット |
ラットプルダウン(75kg) | 6回×4セット |
ベンチディップ(75kg) | 6回×4セット |
ブリッジ(75kg) | 6回×4セット |
(「CR7 cristiano-ronaldo」より)
これは、ボディビルダーのトレーニングメニューではない。レアル・マドリードのFWであり、ポルトガル代表のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド。彼がマンチェスター・ユナイテッド時代、個人的に取り組んでいたトレーニングメニューの一例である。
スポルティング・リスボンからマンチェスター・ユナイテッドに移籍した2003年当時、やや華奢なスピードあふれるドリブラーだった彼の体格は183㎝74kg。それに対し、2013年の体格は184㎝84kg。この10年で熱心にウェイトトレーニングに取り組み、体重を10kgアップさせた。10年前と今では、もはや別人である。そして以前から持っていたスピードに圧倒的なパワーを上乗せし、スーパースターの座へと上り詰めた。
また、スウェーデン代表のFWズラタン・イブラヒモビッチ。彼も2004年、イタリアの名門クラブ・ユヴェントスに移籍すると、熱心にウェイトトレーニングに取り組んで体重を10kgアップさせた。彼もまた、世界的なストライカー。現在の活躍は言わずもがなである。
ウェイトトレーニングは、ヨーロッパの一時的な流行に過ぎないのではないか? そんな疑問を持つ方もいるだろう。だが、それは違う。
例えばブラジル。国内の多くのクラブには以前から、専門のフィジカルトレーナーが常駐。選手達は育成年代に合わせて処方されたウェイトトレーニングのメニューに、熱心に取り組む。ブラジル代表というと、ストリートサッカーを原点としたテクニックばかりが注目されるが、実際はフィジカルも重視されているのだ。またブラジル代表のエース、ネイマールも、国内クラブからバルセロナへ移籍するにあたり、激しいぶつかり合いに耐えうる身体を作るため、数kg体重をアップさせたという。
もちろん、サッカーはラグビーやアメリカンフットボールとは異なり、ぶつかって押し合うための絶対的な質量が必要な競技ではない。ここでは、サッカー選手はラグビーやアメフト選手のような身体になるべきだ、と主張しているわけでは決してない。また、ボディコンタクトで相手に負けないためには、体重やパワーがすべてではないのも確か。バランス感覚そしてボールの置き方、身体の使い方も重要になってくる。
そのセオリーありきで、2006年当時の代表監督・ジーコが退任に際して語った言葉に、耳を傾けてほしい。
「世界との体格差を強く感じた。上背の問題は仕方ない面もあるが、90分耐えうるベースの問題、例えば上半身・下半身の強さなどをどんどん鍛えていけば、自分たちの持っている力を発揮できると思う。この体格差の問題は、個々の選手の責任ではない。彼らは、もっと若いうちに技術だけでなくフィジカルの面でも鍛えるという環境になかった。ただ彼らが資質を持ちながら、もっとコンスタントに力を発揮するためには体格も必要な要素だったと思う。日本代表としての活動時間は短いので、これは日本サッカー協会と各クラブなどが連係して世界の最先端の国々と協力していくべきだ」
(※2006年6月26日の退任会見より要約)
では聞きたい。ジーコの退任から8年。果たして日本のサッカー選手のフィジカルは、どれほど向上したのだろう?
欧州で活躍するトップ選手達が熱心にウェイトトレーニングに取り組み、圧倒的なフィジカルを手にしている。その傍らで、日本のサッカー選手達が筋力アップへの取り組みをほとんどしていないのは間違いない。そして自らのフィジカル不足を「日本人ならではの身体特性」と考え、開き直っているようにも見える。「日本と世界にはフィジカルの差がある」という思い込みは、もはや戦術面の前提条件とすらなっている。
それどころか、一部のトップ選手やサッカー解説者が「ウェイトトレーニングをすると体が重くなる」「サッカー選手にウェイトトレーニングは不要」などと、明らかに間違った思い込みを流布させる始末。これについては以前の特集でも解説しているが、筋肥大による体重アップは段階的に、時間をかけて行う必要がある。また体重アップでプレーに支障が出る場合、筋量を増やす時期と筋力を上げる時期の目標設定に過ちがあった、もしくはトレーナーとのコミュニケーションに何らかの問題があった、などの要因も考えられる。ウェイトトレーニングを行う際には、それが筋量を増やすためなのか、出力を上げるためなのかを、選手本人とトレーナーがしっかり情報共有する必要があるのだ。
いずれにせよ、今の日本のサッカー選手は、筋力トレーニングに対する意識は低い。そう言わざるを得ない。現在はインテル・ミラノで活躍する長友佑都選手の影響で、コアスタビリティトレーニングに熱心に取り組むサッカー選手は増えた。しかし、それだけで身体が完成するわけがない。ベーシックな、筋量を増やすためのトレーニングに、若年層からもっと取り組むべきである。
では、どこの筋肉を重点的に鍛えるべきなのか。
1試合あたり10~12kmと、走行距離の多いサッカーにおいて大事なのが、常に姿勢を維持し、広いビジョンを持ちながら走り続けることだ。フィジカルの足りない選手は試合終盤になるといい姿勢を維持できず、ミスにつながる可能性がある。そして、走りながらいい姿勢を維持するには、特に背中とお尻まわりの筋肉をしっかりと付ける必要がある。
これらの筋力トレーニングをしっかり行うのは、成長が安定し、テストステロンの分泌が活発になる高校生(16~18歳)から。この時期は、筋肉の出力を上げることよりも、筋量を増やすことを重視すべき。筋力トレーニングをどんどん行い、プロテインなどサプリメントも積極的に摂り、体を大きく、強くすることが大事である。しかし日本のサッカー選手の多くは、16~18歳の時期に筋力トレーニングを怠っており、プロや大学生になっても基本的なプッシュアップや斜め懸垂が満足にできないこともあると聞く。確かに高校やユースチームはほぼ1年中試合をこなすもの。しかしそんなスケジュールの中でも、コーチは選手の将来を見据え、筋肥大のトレーニングと栄養摂取を積極的に取り入れていただきたい、と切に願う。
現在、ドームアスリートハウスでは、数人のサッカー選手がフィジカルトレーニングに励んでいる。彼らは外国人とのパワー差を痛感。身体を大きくするため、あらためてフィジカルトレーニングに取り組んでいる最中だ。彼らはきっと、今後のリーグそして日本代表を変革していくに違いない。
6月15日から始まる、日本代表の大勝負。結果は神のみぞ知ることだが、われわれも当然、勝利を強く願っている。しかしどのような結果であろうと、サッカー日本代表が今後、世界のベスト4入り、そして優勝を成し遂げるためには、さらなるフィジカルアップが絶対に必要となる。
日本人がこれまで培った、優れたテクニックとパスワーク。そこに屈強なフィジカルを上乗せし、世界の強豪国を技術でもパワーでもねじ伏せる。そんな日本代表を、いつか見てみたい。